「リストは人間味あふれる人。それを新譜から聴き取ってほしい」
ジョージア出身のマリアム・バタシヴィリは〈リストのスペシャリスト〉と称され、各地で活発な活動を行っている。コロナ禍ではオンラインで演奏を発信し、多くの人から高い評価を得た。
「みなさんから〈癒される〉〈元気になれる〉といっていただき、私もエネルギーをもらいました。その後、息子が生まれ、息子が大好きな曲を中心に〈ララバイ〉と題した美しい旋律を備えた名曲を集めたデジタル配信を行い、さらに〈アンコールズ〉と名付けたデジタル配信も行っています」
バタシヴィリの新譜は『ロマンティック・ピアノ・マスターズ』で、リストが愛したフランクの“前奏曲、フーガと変奏曲”で幕開けし、シューベルトやワーグナー、グノーのリストによるトランスクリプションやタールベルクの作品などが登場する。
「リストは超絶技巧だけではなく、美しく情感あふれ、豊かな歌心を備えた作品を書きました。容姿も性格もとても魅力的で、寛大です。ただし、タールベルクのピアノにはジェラシーを抱いていたようで、それがとても興味深い。今回はそんな人間味あふれるリストを聴いていただきたいと思ったのです」
フランク(バウアー編)に関しては、オルガンの響きをピアノで奏でることに苦心した。
「ピアノはオルガンのように足鍵盤はありませんから、持続音を出すことに苦労しました。でも、オルガンの響きのように幾重にも音が層を作っていく面に工夫を凝らしています。アルバムのコンセプトはうたうような響きで、ワルツもテーマのひとつ。各ワルツのリズムが微妙に異なるところを聴いてほしいですね」
バタシヴィリがリストに魅了されたのは、13歳のときに弾いた“ハンガリー狂詩曲”だ。
「私は速いテンポでダイナミックに演奏していたのですが、ナタリア・ナツリシヴィリ先生に〈ロマの音楽だから悲しみのなかに爆発するようなエネルギーを秘めている〉といわれ、ロマのことを学び、それを音に託したリストの深みのある内容に惹かれていきます。以来、リストの作品の内奥に迫る演奏をしたいと願うようになり、“ダンテを読んで”も大好きな曲です」
いま彼女は心理学を学び、子どもたちが幼児期のトラウマを抱えたまま成長しないようにとコーチングの勉強もしている。演奏も性格も思慮深く知的で魅力的。リストにそれが詰まっている。