
日本と西洋、異文化の架け橋になりたい
――オーストラリアの音楽というと、ロックを思い浮かべる方も多いかと思います。シティポップやAORを主に演奏しているジュンさんですが、オーストラリアのシーンで〈浮いているな〉と感じたことはありますか?
「そもそも、私はオーストラリアの音楽シーンで立ち位置を見つけることに意識的でした。オーストラリアの音楽シーンはどちらかというとロックやオルタナティブが主流ですが、私の音楽は日本のシティポップやAORの影響を強く受けています。これがユニークなアイデンティティを持つことにつながったので、むしろポジティブに捉えています」
――音楽活動を通じてオーストラリア人にシティポップ、ひいては日本文化を伝えていきたい、という気持ちもあるのでしょうか?
「それもあります。このようなアプローチは、西洋のマーケットにおいて新鮮なものとして受け入れられる可能性がある、とも感じています。私は自分の音楽的ルーツを尊重しながらも、異文化間の架け橋となりたい、と思うんです」
――オーストラリアではシティポップの認知はまだ低いのかもしれないですが、ミュージシャンの活動をジャンル問わずサポートする環境が整っていると感じました。オーストラリアにいたからこそ今がある、とも言えるのでしょうか?
「ええ、オーストラリアにいることで、自分だけの音楽を作ることにより集中できるようになりましたね。オーストラリアでは個人主義的な傾向も強いと感じます。独特なものを持っていないと、業界で注目されにくいですから。私は日本の文化・社会をよく理解しているので、それを生かしてオーストラリアで独自性の高い音楽を表現することにフォーカスしています」

異国で再発見した日本文化の魅力
――逆に海外に身を置いているからこそ、日本文化の魅力を再確認できたと思いますか?
「そうですね。海外に行く日本人の中には、日本の環境に否定的な人もいます。例えば〈日本はあまりクールじゃない、海外の環境に身を置く必要がある〉といった考えを持っている人も多いでしょう。私も実は似たような考えを持っていました。オーストラリアに来た当初は、言語や文化を理解し、新たなアイデンティティを築こうとしていました。
でも、最終的には育った場所(日本)を恋しく思うようになりました。心の拠り所はいつも日本でしたし。日本から持ってきたCDを聴いては、〈この感情、この感覚なんだよな〉と思っていました。
数年経ったある時、日本の映画や文学など、日本の文化に触れる機会が少なくなっていることに気づいたんです。私は日本で生まれ育っているにもかかわらず、日本の文化的アイデンティティを失いつつある、という危機感が芽生えて。〈文化的に日本に戻る必要がある〉と感じました。私にとってある種のルネッサンス(文芸復興)のようなものでしたね。その気づきをきっかけに、〈日本についてできるだけ多くのことを知りたい〉と思うようになりました」
――音楽以外に、どのような日本のアートに興味がありますか?
「大学時代は日本の純文学に興味を持ち、小説を読んでいました。特に安部公房を熱心に読んだんです。村上春樹にも興味を持ち、何冊か読みました。村上春樹は日本人ですが、彼が描くストーリーは伝統的な日本のイメージにとらわれていませんし、世界中にファンがいます。そういう意味でシティポップと似ていると思います。私は日本の文学を通じて、日本人の心理や文章の書き方も理解したいと思っていたんです」
――作詞において、日本の文学からの影響はありますか?
「その可能性はありますね。例えば、川端康成が表現した日本らしい感傷的でミニマルな描写などです。ただ文学だけでなく、さまざまなアートから影響を受けていると思います。例えば、印象派やシュールレアリスムなどのビジュアルアートも好きですし」

フォークの切ない歌詞をシティポップに乗せて
――作詞面で影響を受けたアーティストはいますか?
「伊勢正三の歌詞が好きです。少しクールな視点で書かれていて、聴き手を突き放すんです。そこに漂う寂寥感やメランコリーが好きですね。例えば、かぐや姫の“湘南 夏”で〈なぜ海が見たいのだろう/もう若くもないのに/もしも沈む夕陽に 間に合えば/ただそれだけのこと〉と歌っていて、終わり方にどこか冷静さと哀愁を感じるんです。あの感覚はシティポップや日本の文学にも通じるものがありますね」
――ジュンさんの歌詞からも、その傾向が感じられるかもしれませんね。例えばラブソングであったとしても、直接的な表現ではなく、どこか付かず離れずのアンビバレントな感情が歌われています。
「まさにそうです。そこに美しさを感じるんです。日本のフォークミュージックに漂う、切ないリリシズムとシティポップを掛け合わせたいんですよね」
――作詞をする際、日本語で書くことが前提となっているかと思いますが、もし英語で書いたら作曲にも影響すると思いますか?
「それは自分にとっても大きな関心事項です。同じ曲を英詞で書き直すのは難しいと思いますが、挑戦してみたいですね。実は、すでにいくつかの曲の詞を、英語に書き換えてみたんです。まだどこにも公開していませんが」
――ジュンさんの曲を別の言語に書き換えてカバーするアーティストがいたらどう思いますか?
「とても嬉しいです。グローバルなコラボレーションを促進し、国籍や文化的背景の異なる人々が、相互理解を深める機会となって欲しいです」