日本の音楽体験の中で大きな割合を占める〈吹奏楽〉。あのアーティストや音楽関係者も吹奏楽部出身だった、という例も多いでしょう。経験者でなくても、学校の行事や夏の甲子園(全国高等学校野球選手権大会)などスポーツの現場での応援でその音楽を耳にしたことがあるはず。吹奏楽部を舞台にしたアニメ「響け!ユーフォニアム」も今、人気を博しています。そんな大きな存在でありながらも、吹奏楽という音楽について語られる機会は少なくないでしょうか? もっと吹奏楽の話をしたい!という思いから、新連載〈もっと!吹奏楽〉をスタートさせました。記念すべき初回は、2024年現在の吹奏楽を巡る状況を経験者視点で概観したコラムです。 *Mikiki編集部


 

私も吹奏楽部員だった

吹奏楽。誰もが一度は学校で、あるいはテレビで、その音楽を聴いたことがあるだろう。かくいう筆者は中学時代にマーチングで全国大会、高校時代は吹奏楽で関西大会に出場し、青春時代は吹奏楽に捧げた/楽器が恋人な生活を送ってきた。

数十人は部員がいて、各楽器に担当がいて……というのがいわゆる一般的な吹奏楽部のイメージで、部員数名、存続危機、という吹奏楽部は存在しつつも少数派だろう。吹奏楽は一体いつから世間で地位を確立してきたのだろう?

吹奏楽やマーチングというと、学生時代の元カノ/元カレが吹奏楽部員だったという人もいれば、日本テレビ「1億人の大質問!?笑ってコラえて!」内の〈吹奏楽の旅〉シリーズを想起する人も多いだろう。後者については、いわゆる鬼顧問が登場し、叱咤激励のもと涙と汗の混じった練習を重ねる部員たちの姿をみなさんも覚えているのではないだろうか。〈吹奏楽の旅〉を特集した2004年11月のスペシャル番組はギャラクシー賞を受賞するなど、人気コーナーであった。また、女子高生たちがビッグバンドジャズに取り組む映画「スウィングガールズ」も2004年9月公開と、2000年代初頭に世間の吹奏楽部に対する風向きが変わり始めたのは間違いなく、当時のことはしばしば当時を回顧する顧問から聞く話でもあった。筆者はというと2000年生まれで、 中学生になり部活動を選択する頃には、熱血指導な吹奏楽部は盤石の人気を誇っていたのである。

矢口史靖 『スウィングガールズ SWING GIRLS スタンダード・エディション』 東宝(2005)

 

大人気「響け!ユーフォニアム」と吹奏楽部の現在

だが、この令和の時代、あれほどの鬼顧問がまだ存在しているとは思えない。筆者が中学時代を捧げた部活の(鬼)顧問も定年を迎えて引退しており、2019年に兵庫県宝塚市の中学校で合奏中に起こってしまった悲しい転落事件も記憶に新しい。あの頃の熱血!な吹奏楽部も、現在は様変わりしていることだろう。

それだけではない。ここ数年の吹奏楽にまつわるニュースといえば、コロナ禍に見舞われたこと。練習やコンクール、演奏会の中止や延期に加え、吹奏楽連盟の理事長の交代など、吹奏楽部を取り巻く状況は大きく変わりつつある。そんなさまざまに変化する状況のなかでも、未だに吹奏楽部は人気なのだという。

その理由のひとつとして挙げられるのが「響け!ユーフォニアム」シリーズの人気ぶりだろう。本当はトロンボーン担当になりたかったけれど、マウスピースのサイズが同じだからという理由でユーフォニアム担当になった中学1年生の冬、書店で筆者が手に取ったのが小説「響け!ユーフォニアム」だった。アニメで尼崎のあましんアルカイックホールが再現されている様子や、関西吹奏楽あるあるの〈3強〉と呼ばれる強豪校の要素が取り入れられていることなど、現実の吹奏楽世界とリンクしたリアルな内容に唸ったのを覚えている。今やアニメもシーズン3まで放送され、吹奏楽を知るきっかけとして大きく機能している。後に続けと「宇宙の音楽」など人気吹奏楽マンガが続々と出現しており、そうしたメディアの力もあってか吹奏楽部人気は依然として続いているようだ。