言葉に打たれ、美音に酔う。新部長・久美子の成長の物語
吹奏楽に懸ける高校生たちを描き、幅広く愛され続ける「響け!ユーフォニアム」シリーズ。2024年春に放送予定のTVシリーズ第3期に先駆け、この夏「特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~」が劇場公開された。
時系列は、2019年公開の「劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」の直後。2015年の第1期では新入生だった主人公・黄前久美子は2年生、卒部した3年生にかわり新部長として奮闘する。アンサンブルコンテスト――通称〈アンコン〉出場の代表チームを決める校内予選がテーマだが、何より印象的なのは、総勢65人の強豪吹奏楽部をまとめていく久美子の成長。コンクールに挑む部員たちの群像劇であるシリーズのテイストはそのままに、今回は久美子自身の日常や感情が、より深く丁寧に紡がれているのだ。
もともと久美子は、能天気なタイプ。少し周囲に流されがちで、ユーフォニアムを始めたのもなりゆきだった。しかしそれは普通のこと。夢に向かって一直線の子どもなど、一握りしかいない。ごく普通の久美子が、目標や役割を与えられることで少しずつ成長し、ついに部長まで務める──これぞアツい展開ではないだろうか。実際、入学時と比べるとキャラクターたちの顔つきはどこか大人びているように感じる。黒沢ともよや安済知佳が演じる声も、低く落ちついたトーンに変化しているように聞こえ、耳に心地いい。
キーパーソンとして登場するのは、パーカッション担当の釜屋つばめだ。彼女のマリンバの音は、劇中で際立って美しいのだが、本人は演奏に悩んでしまう。そんなとき、久美子の的確なアドバイスが光る。部長としての久美子なりの観察眼が活かされ、仲間が前を向くきっかけになる。
劇場上映作ということもあり、音響効果も本当に素晴らしい。定評のある〈演奏しているときの息遣い〉はもちろん、ユーフォニアムのピストンが動く〈ストン〉という音までがしっかりと聞こえるのには感動した。マリンバの演奏シーンでは、マレットの動きの繊細な表現を、アニメーターが1枚1枚手描きで描いたという。京都アニメーションならでは美しい映像は、こうして生まれるのだ。
監督は、シリーズを通して〈ささやかだけれど特別な青春〉を描き続けてきた石原立也。悩みながら成長してきた久美子の言葉に、大人だって勇気をもらえるはず。特典満載の特装版Blu-ray & DVDを片手に、TVアニメ第3期「久美子3年生編」を心待ちにしよう。