蝋燭の灯のように、この音楽はきっと暗闇の中の希望となる――美しい歌唱とミニハープの弾き語りで注目された新進気鋭の才能が、豊かな創造性を注ぎ込んだセカンドEP『呼び声』を完成!

名前に相応しいイメージで

 清らかな流水を思わせる中性的な歌声と薫り高いミニハープの音色が織り成すイマジナティヴな音世界。その世界の主の名は、丁(てい)。SNS上に公開されたカヴァーやオリジナル曲が多くの人の関心を惹き、2023年にTVアニメ「ツルネ -つながりの一射-」のED主題歌“ヒトミナカ”でメジャー・デビューしたシンガー・ソングライターだが、次なる動向が注視されるなかでこのたび届けられたのが、TVアニメ「Unnamed Memory」のOP主題歌“呼び声”を表題に据えたセカンドEPだ。まず一聴して驚くのは、表現力やスケール感が飛躍的に増しているところ。その“呼び声”は〈飛び道具〉だというミニハープから離れ、初の共同アレンジャーとして樂を迎えた意欲的な仕上がりで、単に美しいだけでなく猛々しい表情も浮かべた音像の在りようにこのアーティストの本質を垣間見られる気がする。

『呼び声』 ランティス(2024)

 「“呼び声”では、コーラスなどを作り上げた段階で樂さんにバトンを渡して、アニソンとして作り上げていただくというリレーを行ったので、自分の曲が変化していくプロセスを楽しみながら眺めることができました。その際、この曲は〈時〉がテーマで、時を遡っていくようなアレンジにしてほしいと依頼しました。というのもこのアニメは最終話で時空が戻される、という展開があるので、あらかじめネタバレを行ってみたわけですね。あと曲作りで転調するのが初めてということもあったし、完成形が見えないながらも、最終的にカッコいい曲になるだろうなという予感はありました」。

 収録曲は“ヒトミナカ”の〈mini harp version〉も含めて全7曲。ダークな色彩を帯びたトラックが複雑怪奇な音像を浮かび上がらせる“The Heliosphere”、最少限に削られた音の向こうに儚げな情感が漂う“三つ子”、パレードのような祝祭感に溢れた“off-season butterfly”などそれぞれ印象的な佇まいだが、それらを支えているのが参加エンジニアの面々だ。実は“呼び声”と“because”では宮沢竣介、“螺旋の道”と“ヒトミナカ(mini harp ver.)”では房野哲士、“三つ子”では菅井正剛、“off-season butterfly”では浦本雅史、“The Heliosphere”では安中龍磨(レコーディング)/小森雅仁(ミックス)……と、望む音像に応じて楽曲ごとにエンジニアを変えるという挑戦も実践。本人は「寄せ集めというか、それぞれがシングルで出せるような曲を並べたつもり」と話すものの、その言葉に反して本作は高いトータリティーを宿しているし、壮大なコンセプト・アルバムに触れたような聴き応えがある。

 「それはきっと曲の並び順が影響しているはず。あと、全曲わりと一貫したテーマで作っていたりするのが関係しているかも。そのテーマは私の名前に関係していて、丁って〈ひのと〉とも読むんですね。〈ひのと〉は太陽の対になる月のような存在を意味するんですが、灯火や蝋燭などのゆらゆら揺れる火も表している。そういう意味が込められた名前に相応しいイメージの曲作りを常に理想としていて、そのテーマをさらに深く掘り下げたものがこのEPだと思います」。

 ところで、生ピアノとハープの音色が深いエコーの奥で柔らかに絡み合う様が美しい“螺旋の道”で微かに聞こえる、何かが擦れる音。あれはいったい何?

 「手紙を書いているんです。紙をめくりながらペンを走らせる音を録ってあちこちに配しました。というのも、これはファンに対しての手紙の曲なので」。

 なるほど。そういった隠しアイテムは他にもいろいろとありそうだ。

 「いっぱいあるんですけど……例えば、星のキラキラ感を表現するのに指輪のサイズを測るチェーンを使ってジャラジャラやったり。あと、小さいコップにピックやビーズを入れて振った音にめっちゃリヴァーブをかけてみたりだとか。自分で録った音を編集してSEを作ったりするのが好きなんです」。