90年代のネオGSを牽引しつつ、箱庭的ポップ・センスと粘っこくブルージーな演奏で唯一無二の存在だったデキシーが18年ぶりに復活! ウキウキして飛び跳ねちまうよ!!!
2024年のいまもなお、60年代のヴィンテージ・サウンドを志向する数多くのバンドが世界中で活動を続けている。ここ日本においても例外ではなく、なかでも、ラウドなアンサンブルのなかにムンムンと香るブルース・マナー、英語と遜色なく歌われるとんちの利いた日本語の歌詞、演奏とシームレスに行われる聴衆をアジテートするかのようなステージMC……など、いくつかのバンドから感じ取られる共通項があるが、その源流のひとつは間違いなく、このデキシード・ザ・エモンズである。
デキシード・ザ・エモンズ、通称デキシーは、アベジュリー(ヴォーカル/ギター)とハッチハッチェル(コーラス/ドラムス)を中心に1990年に結成され、以降、その時期時期で特徴のあるベーシストを迎え入れながら、基本的にトリオ編成で活動を続けてきたバンドであるが、前述のようなフォロワーや熱狂的なファンを生みつつ、惜しまれながら2006年に一度解散している。
「自分もはっつぁん(ハッチ)もそれぞれソロを始めていて、解散の1~2年前から辞めようっていうことで話はついていて、それを誰にも言わずにやってたんですけど、そのムードを周りに感じ取られて〈すごく仲悪い説〉も流れたりして(苦笑)。でも、ビートルズの映画『ザ・ビートルズ:Get Back』とかを観てもわかるけど、ずっと仲悪いわけじゃなくて、一緒にレコーディングもやればゲラゲラ笑ったりもするっていう」(アベ)。
「2人一緒に暗いダメな青春を過ごして、そのチームワークでずっとやってきたんですけど、暗さもなくなり、お互い家族もできたりして、この関係がいちばんじゃなくなっても続けていくのが本当にいいのか?って」(ハッチ)。
長い青春が終わるのと同時に一度は解散したデキシー。彼らが情熱を取り戻す手助けをしたのが、インディー期の彼らの作品をリリースしていたレーベル、KOGAの古閑裕である。彼の声掛けにより、ベースにフジオカ ドイチローを加えた編成で、2013年ごろからたびたびライヴを行ってきた彼らではあるが――。
「2年くらい前に古閑さんから〈新譜作らない?〉って言われて〈アルバムっていう形は約束できないけど、4曲しか録れなかった場合、その4曲で出してもいいなら何とかやってみます〉みたいな感じだったんだけど、曲を合わせる初日にはっつぁんが30曲作ってきちゃって(笑)」(アベ)。
「ハイ、アルバム確定!って(笑)。古い人間ですから、6~7曲で新譜ってんじゃなくて、〈ニュー・アルバム〉っていうからにはやっぱり10曲ぐらいは欲しいなと思って作っていったら30曲くらいになってしまってね」(ハッチ)。
そうして完成した18年ぶりとなるアルバム『JUMBO MONET』は、デキシーならではのラウドなブルースに新機軸がそこかしこ上積みされた快作となっている。とりわけ耳を引くのが、これぞデキシーらしさの正体かとあらためて気づかされる、独特のコーラスワークだ。
「ビートルズ、ゾンビーズ、ビーチ・ボーイズもそうですよね。自分としては楽器よりも重要だったりするんですよ。歌とコーラスが同格で、楽器がその下という感覚。はっつぁんはホント、ずーっとコーラスを入れてたりするから」(アベ)。
「後で直すのはやっぱりズルいだろうと、何回もやり直して。イチローなんかはそういう緻密なコーラスを録るのが初めてだったけど、〈お前の声の高さがここには必要で、お前じゃなきゃダメだから最後までやってくれ〉って何回も何回もやり直しさせて。そうしたら次のライヴでコーラスがすげえよかったんですよ。お前、いままで何やってたんだよ!っていう(笑)」(ハッチ)。
彼らもまた、レコードに魔法を宿してきた数々の先人たちと同様のスタジオ・ロマンチストなのである。デキシード・ザ・エモンズに情熱が戻り、『JUMBO MONET』という形になった。あとは私たちが体感するだけだ。
左から、デキシード・ザ・エモンズの2006年作『ゴールドディスク』(Pヴァイン)、アベジュリーの2016年作『Laundry Demos』(FIELDWOOD SOUND)、ハッチェルズの2019年作『ハイホーホー』(Office Barbecue)