カメラマン/音楽ライターとしてロックヒストリーにその名を残すクボケンこと久保憲司さんの連載〈クボケンの配信動画 千夜一夜〉。Netflixなど動画配信サービスが普及した現在、寝る間を惜しんで映画やドラマを楽しんでいるというクボケンさんが、オススメ作品を解説してくれます。

今回採り上げるのは、ビートルズが解散する1年前の69年に行ったレコーディングセッションと、その最後に実施された〈ルーフトップ・コンサート〉を題材としたDisney+のドキュメンタリーシリーズ「ザ・ビートルズ:Get Back」。映画「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで知られるピーター・ジャクソン監督が、当時のドキュメンタリークルーが残した57時間以上の未公開映像と150時間以上の未発表音源を、3年の歳月をかけて復元・編集し、約8時間もの作品にしました。すでにたいへんな話題となっている本作を、クボケンさんはどう観たのでしょうか。 *Mikiki編集部

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©1969 Paul McCartney. Photo by Linda McCartney.
ドキュメンタリー作品「ザ・ビートルズ:Get Back」
■監督:ピーター・ジャクソン 
■出演:ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター 
公式サイト:Disney.jp /thebeatles
ディズニープラスにて全3話見放題で独占配信中

 

ビートルズと地獄のような日々を過ごすという恐怖映像?

「無人島に持っていくアルバムは何?」と訊かれたら「ビートルズのアルバム」と答える久保憲司です。そんな僕でも恐ろしく感じるドキュメンタリーでした。はじめは〈うわー、屋上ライブまで毎日、ビートルズと過ごせるのか〉とうれしくなったのですが、楽しかったのは初日くらいで、2日目くらいから地獄のような日々をビートルズと過ごすという「イカゲーム」を超える恐怖の連続でした。

当時の撮影を監督していたマイケル・リンゼイ=ホッグがやばすぎます。スタッフに何があろうが、映像をおさえ続けろというとんでもない指示だしをしているようで、何があろうがずっと撮影されてます。そのおかげでビートルズの何が問題だったのか、完全におさえられてました。「撮影を止めろ」と言われたときも、音だけはちゃんと録っていたり、いちばん凄いのはポールとジョンのこれからどうするかという2人だけのミーティングを、花瓶に隠しマイクをしこませて録ってました。

カメラの前では話さない2人の真実の声が録れていて、ビートルズの何が問題かということが結構解明されてます。あとの3人がなぜポールのことをあそこまで毛嫌いしたかというと、ポールが指示出しするのを、ジョン、ジョージも「そういうのやめてくれないか」と言わなかった結果、負の気持ちがどんどん肥大化していって、どうしようもなくなったからというのが真相だったんだろうなと思います。

ジョンがリーダーなんだから仕切れよという感じなんですけど、みんなヒッピー思想にどっぷりと浸かっているので、他人がやろうとすることをやらせないというのはカッコ悪い、ヒッピー風に言うと〈グルーヴィーじゃない〉ということだったんだと思います。

ジョージなんかブチ切れていて、リードギタリストなのに“Get Back”ではいっさいリードギターをやってないのです。仕方がないんでジョンが律儀に全部リードギターをやっているのです。今回で初めて気づきました。あのリードって交互にやっているのかなと思っていたら、ジョージはいっさいやっていないのです。

そんなジョージも一度バンドを辞めてからは改心したのか、最後の最後には“Let It Be”でちゃんとリードギターをやるようになっていて、安心しました。エリック・クラプトンにはなれないけど、彼のできる範囲で頑張った最高のリードギターを披露しています。最後に本当にちょっとだけですけどね。

ドキュメンタリーを観ているとジョージの脱退のいちばんの理由は出版を管理してるノーザン・ソングスのディク・ジェイムズが来て、ポールとジョンにはおべんちゃらをつかって、ジョージとリンゴにはあまり気を使っていない姿にムカついたという感じにもとれます。ジョージはノーザン・ソングスを批判した“Only A Northern Song”という曲を作ってますからね。

とにかく第1話のジョージが辞めるときの衝撃はすごいです。音だけでしたけど、記録されていて、本当にショックです。僕もいろんな音楽業界の修羅場を見てきました。メンバー同士が喧嘩するのはどんな親しい奴でも止められないのです。どうしていいかわからず、立ちすくむだけです。そんなときの気持ちが思い出されて、泣いてしまいました。

 

©2021 Apple Corps Ltd. All Rights Reserved.
ドキュメンタリー作品「ザ・ビートルズ:Get Back」
ディズニープラスにて全3話見放題で独占配信中
 

ビートルズの曲を守るためポールは解散を選んだ

ビートルズ解散への伏線がどんどん出てきます。ヨーコさんが嬉しそうに「アラン・クレインが来た」と言うんです。のちにビートルズのマネジャーになろうとする男です。

ポールはアラン・クレインが悪い奴ということはよくわかっていて、アラン・クレインがマネジャーになるとビートルズの権利を全部奪われてしまう、ビートルズの権利を守る唯一の方法は自分が脱退してビートルズを解散させることだ、と考えたわけです。彼らは解散したけど、ドキュメタリーのなかでジョンがポールに〈離婚(解散)はいいけど、僕らの子(楽曲)はどうする〉と言っていましたが、彼らの子供は守られたわけです。

このいちばんの問題はローリング・ストーンズのミック・ジャガーとキース・リチャーズなんですよね。ストーンズはアラン・クレインから酷い目にあわされているのに、ミックもキースも彼らに「アランは悪い奴だよ」と言わなかったのです。この二人が「アラン・クレインは絶対やめたほうがいい」と強く言ってたら、ビートルズの解散はなかったと思うのです。

ドキュメタリーのなかでも、プロデューサーなんかエンジニアなんかわからない微妙な立場で大変な仕事をさせられていたグリン・ジョンズはジョンに「あいつはあかん奴や」と言っているのですが、グリン・ジョンズの意見なんかジョンは聞かないですよね。

 

©2021 Apple Corps Ltd. All Rights Reserved.
ドキュメンタリー作品「ザ・ビートルズ:Get Back」
ディズニープラスにて全3話見放題で独占配信中
 

ビートルズは残業しない

観ている人はなぜヨーコさんがいつも一緒にいるのかと疑問に思っていると思いますが、フェミニズムと言いますか、壮大な夫婦の実験なのです。ジョンはこう言ってます。「君たちは家に帰って、奥さんに今日どんなことやったかを話すだろ。でも僕たちはずっと一緒にいて同じ経験をしてるから、家に帰ってもそんなことする必要ないんだ」。アートと言えばアートですけど、周りの人には大迷惑です。でも、みんなヒッピーなんで、他人がやることを否定するのはクールじゃないという思想にハマっていて、何も言わないわけです。

この思想がビートルズ解散のいちばんの原因かな。

あと、みなさん気づいているかわからないですが、締め切りが迫ってるのに、彼らは残業もなし、土日も出勤しないですよ。最後だけ日曜日に来ましたが。ちゃんと19時を過ぎたら家に帰るのです。11時から19時まで。日本人がこれ見たらびっくりしますよね。でも長くやっても耳がバカになるだけだから彼らが正しいのです。

ポールの後の奥さん、リンダの連れ子のヘザーがスタジオに来ても全然うるさそうにしてないのを観て、けっこう小さめの音でやっているのだなと思いました。耳が痛くならないくらいの気持ちいい音量でやっているのでしょう。これも大事だよなと思いました。屋上ライブのときは近所から五月蝿いって大苦情でしたが。

観てて辛かったけど、その最後の瞬間(=芸術そのもの)に立ち会えたような感覚を与えたくれた監督のピーター・ジャクソンには感謝です。

みなさんも心して観てください。