Artificial Paradise
人気アニメ「怪獣8号」で使われた“Nobody”も記憶に新しいワンリパブリックが、ここ数年で実らせてきたカラフルな果実を3年ぶりのアルバムとしてパッケージ。多彩な楽曲の揃えられた人工的な楽園はこの夏を心地良く盛り上げてくれるはず!

 昨年は来日公演に伴って独自ベスト盤『OneRepublic (Japan Paradise Tour Edition)』を発表し、今夏には〈サマソニ〉出演も控えるワンリパブリックが通算6枚目のアルバム『Artificial Paradise』をリリースした。そうした日本寄りのトピックもあったからご無沙汰感は薄いものの、実際にアルバムとしては2021年の『Human』以来3年ぶりだ。とはいえ、ある時期からの彼らはアルバムを目掛けて曲を作る従来型の制作サイクルを離れたこともあって、今回も前作以降にさまざまな形で発表されてきた楽曲がパッケージされている。その間にバンドはグリフィン“Alive”に客演し、フロントマンのライアン・テダーはソングライター/プロデューサーとして最近もボン・ジョヴィやテイト・マクレー、BLACKPINK、ジャスティン・ティンバーレイクら多くのアーティストの楽曲に携わっているが、そうした単曲サイクルでの考え方と取り組みがバンドの創作にも巧く落とし込まれた結果、多くの人脈とのコライトも交えつつアルバムの彩りはかつてなく豊かなものとなった。多くの楽曲は世界各地のさまざまなスタジオやホテルの部屋で書かれたものだそうだ。

ONEREPUBLIC 『Artificial Paradise』 Mosley/Interscope/ユニバーサル(2024)

 もっとも過去の曲は映画「でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード」(2021年)のサントラに提供された“Sunshine”で、他にももともと2016年に書かれていたという“West Coast”(2022年)、映画「トップガン マーヴェリック」の挿入歌“I Ain’t Worried”(2022年)、ダフト・パンク“Doin’ It Right”を引用した疾走チューン“Runaway”(2023年)、ゲーム「アサシン クリード ミラージュ」のために書いたいわゆるワールド・ビート的な“Mirage”(2023年)、デヴィッド・ゲッタと〈恋のマイアヒ〉ネタで盛り上がる“I Don’t Wanna Wait”、アニメ「怪獣8号」のエンディングテーマとして日本でもお馴染みの“Nobody”、さらにレオニーを迎えてメドゥーザとコラボした〈UEFA EURO 2024〉公式ソングの“Fire”まで、成り立ちも用途も録音時期もバラバラな楽曲がギッシリ収録されている(日本盤にはボートラも含めて全18曲を収録!)。アレンジは多彩なれど全体にシームレスな流れがあるように感じられるのは、恐らくライアンの歌唱や洗練されたプロダクションの安定ぶりの証明でもあるし、あるいは各曲が見事に独立しているがゆえに、逆に浮いて聴こえる曲がないように感じられるのかもしれない。

 そういうことであれば、あとは彼らならではのキャッチーなセレクションを楽しむだけである。活気に溢れたアンセミックな意匠が目立っていることもあって、夏のシチュエーションにも相応しい軽快で聴きやすい作品になっているし、長年のファンにも新規のリスナーにも親しみやすい心地良い楽曲集といえるだろう。最終的にアルバムのフォルムを整える格好で用意されたという楽曲群は〈人工的な楽園〉を意味するタイトルやそのテーマ性を巧みに表現していて、満場のシンガロングが目に浮かぶような“Hurt”から幻想的な雰囲気の“Serotonin”、清々しい昂揚感に溢れた“Stargazing”まで、このバンドがまだまだ貪欲に進んでいく様を見せつけてくれる。

 なお本作は、ティンバランドにフックアップされて以来ずっと在籍していたインタースコープからの最後のアルバムとなるというが、不安定な時期も経験しながら多忙のなかに自分たちのペースを見い出して安定感を手にした現在の彼らだけに、この先にもまだまだ期待してよさそうだ。

左から、ワンリパブリックのベスト盤『OneRepublic -Japan Paradise Tour Edition』、ヤングブラッドとワンリパブリックのスプリット・シングル『Abyss/Nobody』(共にユニバーサル)、グリフィンの2022年作『Alive』(Interscope)