旅するように聴きたいアメリカの音楽
日本でもたびたび名演を聴かせてくれたヴァイオリニストのアウグスティン・ハーデリヒ。2024年2月の公演ではちょっと変わった無伴奏プログラムを演奏した。古典であるバッハ、イザイに加え、コールリッジ=テイラー・パーキンソン、デイヴィッド・ラングという日本ではあまり知られていないアメリカの作曲家の作品をその間に並べていたのだ。
「実はアメリカの作曲家に焦点をあてたアルバムを録音したばかりで、それを日本の皆さんに披露したかったのです」
と、その意図を教えてくれた。
「私はイタリアとドイツで育ち、ジュリアード音楽院に入学するためにアメリカに渡りました。アメリカという国はやはり〈文化の坩堝〉と言われるぐらいなので、クラシック音楽だけを取り上げてもかなり幅広い作品が存在していました。現代も常に作品が生まれ続けており、それらを自分の演奏会の中に出来るだけ取り込んで行きたいと考えていました。それが今回のアルバム『American Road Trip』に繋がりました」
そのアルバムの選曲は本当に興味深い。エイミー・ビーチ、チャールズ・アイヴズ、ウィリアム・クロールといった、ちょっとアメリカ音楽に関心を持つ人なら名前は知っている作曲家から始まり、さらに現代を生きるジョン・アダムズ、スティーヴン・ハートキなどが並び、もちろんレナード・バーンスタインも。筆者が個人的に嬉しかったのは先のパーキンソンに加え、エディ・サウスの作品も加わっていたこと。
「パーキンソンの作品は、イザイがもしブルースを聴いて育ったらこんな感じの作品を書くのでは、と思わせてくれる変拍子とグルーヴとスウィング感と意外性に満ちています。比較的無名の彼の作品に注目して欲しかった。エディ・サウスは黒人であったために20世紀初頭のアメリカ国内では天才奏者として認められず、フランスでグラッペリなどと共演を重ねていました。そうした作曲家の作品に出会えたことは、やはりアメリカに移住した成果だと思います」
そしてジョン・アダムズの“Road Movies”はまさにこのアルバムを象徴するかのよう。
「ピアニストのオライオン・ワイスとは、アメリカのツアーでこのアダムズ作品を何度も演奏していました。アメリカ西海岸の多様性をこれほど見事に描いた音楽はほかに無いと思います」
ハーデリヒの意外な一面を知ることも出来るアルバムをぜひ手に取ってほしい。