コラム

オペラ〈ドン・カルロ〉/ジュゼッペ・ヴェルディ

悲恋オペラ〈ドン・カルロ〉では動く装置も効果を発揮

新国立劇場オペラ〈ドン・カルロ〉(2006年9月) 撮影:三枝近志 写真提供:新国立劇場

 

 イタリア・ロマン主義を代表する作曲家ジュゼッペ・ヴェルディ(1813-1901)は、『椿姫』『アイーダ』などのオペラで広く知られる。代表作のひとつ『ドン・カルロ』は16世紀のスペイン宮廷を舞台にした悲劇。

 ドイツの文豪シラー(1759-1805)の戯曲に基づく物語の発端は、王子ドン・カルロの婚約者エリザべッタが、父フィリポ二世の妃にされたこと。この三人にカルロを慕うエボリ公女、彼を案じる親友ロドリーゴが加わり、ドラマには嫉妬と疑念が渦巻く。背景にはキリスト教の宗派対立が影を落とす。凄惨な歴史は、カトリック信者たちが新教徒を異端者として、火刑台に送るスペクタクル・シーンに刻まれる。

 ピエトロ・リッツォの指揮による演奏は、重厚な響きで観客の緊張を高めていく。秘密を抱えた登場人物を表現する歌手たちには、歌唱と演技の両面で力量が求められる。新国立劇場において本作は8年ぶりの再演で、初演とは異なるキャストを迎えた。タイトルロールのテノール、セルジオ・エスコバルはスペイン出身でイタリアでの活躍が目ざましい。今年9月に新国立劇場のオペラ芸術監督に就任した飯守泰次郎は声のタイプを重視して、ロドリーゴ役には伸びやかなリリック・バリトンのマルクス・ヴェルバを望んだ。

 進取の気象に富むカルロとロドリーゴが共有する「フランドル地方の新教徒を、迫害から解放しよう」という理想を、フィリポ二世は認めない。既存の制度に囚われる旧世代が、改革を求める新世代を抑圧する構図は、現代の共同体にもつながる。また、カルロへの片思いをつのらせ、エリザベッタの秘めた恋をフィリポ二世に教えてしまうエボリ公女の嫉妬も、時代を超えた感情だ。普遍的な人間の気持ちを音楽で紡ぐ『ドン・カルロ』は発表後、百年を過ぎても古びない。

 愛と政治が交錯する舞台に一層の迫力をもたらすのは、物語の進行につれて動く大がかりな装置だ。たとえば、壁に入ったスリットがずれたり、壁面が折りたたまれたりするうち、ステージには幾つもの十字架が浮かび、変容し、消えていく。十字架は墓標や、人生に課せられた重荷など、多彩なイメージを伝える。

 この装置はカトリック教会に支配される国の閉そく感や、人々を囲いこむ牢獄のような掟を視覚化する。装飾を排した舞台で、人物の心模様に応じて空間全体が生きもののように呼吸するダイナミズムは、現代美術に近い面白さ。ユニークな効果の源は、美術デザインと演出をマルコ・アルトゥーロ・マレッリが兼任している点にある。一般にオペラのチケットは高額だが、各種の割引がある新国立劇場のシステムを調べれば、入手しやすいものが見つかるかもしれない。

 

LIVE INFORMATION

オペラ「ドン・カルロ」/ジュゼッペ・ヴェルディ
全4幕〈イタリア語上演/字幕付〉

○11/27(木)18:30開演
○11/30(日)14:00開演
○12/3(水)18:30開演
○12/6(土)14:00開演
○12/9(火)14:00開演
*予定上演時間:約3時間30分(休憩含む)

ピエトロ・リッツォ(指揮)マルコ・アルトゥーロ・マレッリ(演出・美術)

出演:ラファウ・シヴェク(フィリッポ二世)、セルジオ・エスコバル(ドン・カルロ)、マルクス・ヴェルバ(ロドリーゴ)、セレーナ・ファルノッキア(エリザベッタ)、ソニア・ガナッシ(エボリ公女)、妻屋秀和(宗教裁判長)、大塚博章(修道士)、山下牧子(テバルド)、村上敏明(レルマ伯爵/王室の布告者)、鵜木絵里(天よりの声)、新国立劇場合唱団東京フィルハーモニー交響楽団

会場:新国立劇場オペラパレス
www.nntt.jac.go.jp/opera/