©Tomoko Hidaki

パガニーニは孤独感と歌心とはなやかさが混在する愛おしい存在

 〈日本ヴァイオリン界の父〉鷲見三郎を祖父にもち、両親もヴァイオリニストという音楽一家に生まれた鷲見恵理子は、ミラノやウィーンで活躍する国際的な音楽家。ジュリアード音楽院では11年間に渡り、名教授として知られるドロシー・ディレイに師事した。そのきびしい教えが血肉となり、プロ活動をする上で大きな役割を果たしている。そんな彼女が、祖父の偉業を継ぐべくパガニーニの“24のカプリス”の録音に踏み切った。折しも今年は祖父の没後40年にあたる。

 「2023年11月に録音したのですが、この間に祖父の命日があり、あたかも祖父が見守ってくれるような思いを抱き、集中して演奏できました。この作品は以前からぜひ録音したいと願っていたもので、鷲見家に生まれた自分の使命も感じていました」

鷲見恵理子 『パガニーニ:24のカプリス 作品1』 キングインターナショナル(2024)

 この録音は、ライヴのような即興性と集中力と緊迫感と迫力に富んだ稀有な演奏。その緊迫感から、聴き手は冒頭から最後まで奏者とともに呼吸しているような感覚に陥り、一瞬たりとも耳が離せない。12歳から使用しているというアンドレ―ア・グァルネリウス(1686年製)を友とし、身体の奥から湧き出てくるような自然体の弦の響きは、繰り返し聴きたくなる引力の強さである。

 「全24曲とも個性的で哀愁に満ち、孤独感と歌心とはなやかさが混在する愛おしい存在です。第1番はまさにカッコいい。第2番と第6番はヴェネツィアの雪景色を感じさせ、第5番と第11番はコンクールでよく演奏しました。第4番はとてもいい曲。第8番と第12番はいかにもイタリアらしい曲。トリノの王宮の門を連想します。さらに第12番は天才的な書法が息づいています。第13番は特別な曲。悪魔的な雰囲気がただよい、イタリアのラジオ番組のオープニングにも使用されていました。第15番は男女の会話ですね。第17番はイタリアでは不吉な数字と考えられていて、中間部にそれが表現されています。第18番は北イタリアとオーストリアの山間のアルプホルンを連想させます。第21番は大好きな曲。第24番はフィナーレにふさわしい主題と変奏です」

 使用楽器アンドレ―ア・グァルネリウスは、前作のクライスラーの録音でも威力を発揮した。

 「とても強い楽器で、元気な状態で対峙しないと跳ね返されてしまうほど。ヴァイオリニストは楽器から魂をいただくという感覚があり、それを大切にしています。今回は人生のなかでもっとも幸せな思いで録音できました」

 


LIVE INFORMATION
Connecting Past and Present:音楽の旅

2024年10月11日(金)サントリーホール ブルーローズ(小ホール)
開演:19:00
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20241011_S_3.html