©Ayane Shindo

リストの新たな人間像も知るオルガン作品集

 パイプオルガンに向き合うフランツ・リストの姿を実はあまり想像できない。ただ数は少ないと言いながら、リストは重要なオルガン曲を書いている。しかもその作品は彼の音楽観の本質に触れる内容を持つようだ。リストのオルガン曲を集めたアルバム『プレギエーラ〈祈り〉』をリリースした廣江理枝にオルガニスト・リストについて伺った。

廣江理枝 『プレギエーラ〈祈り〉~フランツ・リスト:オルガン曲集』 R-Resonance/キングインターナショナル(2024)

 「リストはやはりピアノが発展する時代のヴィルトゥオーゾ(超絶技巧を持つ演奏家)であり、ピアノを駆使した作曲家というイメージが強いでしょう。でも、若い頃から敬虔な信仰心を持っており、後年には下級聖職者にも列せられるほど、キリスト教、あるいは教会との関係も深い人でした。彼が幼い頃から教会のパイプオルガンに自然に接していたことが想像されます」

 と廣江。今回のアルバムにはリストの3つの〈オルガン大作〉とも呼べる作品から演奏時間が30分(!)を超す“コラール《アド・ノス、アド・サルタレム・ウンダム》による幻想曲とフーガ”、バッハへの敬愛を心から示した“バッハのカンタータ《泣き、嘆き、憂い、おののき》とミサ曲ロ短調の《クルチフィクスス》の動機による変奏曲”が収録された。

 「これに加え“B-A-C-Hの名前による前奏曲とフーガ”がリストの書いた3つのオルガン用大曲とされていて、その“B-A-C-H~”は以前に録音したので、残りの2曲を中心に、というのが今回のコンセプトでした。“アド・ノス”は実はマイアベーアのオペラ『預言者』の中に登場するコラール風主題を元にした作品で、同時代の作曲家に関心を寄せていたリストの音楽的志向が分かります。“バッハのカンタータ~”のほうはカンタータ第12番第2曲と、ミサ曲ロ短調の“クルチフィクス”に共に使われている下行バス音型を元に書かれた変奏曲です。この曲が作曲された年、リストは愛する娘を失っており、その哀しみとともに、親しい人への愛情の深さも感じられます。常に人を助けるということを意識していたリストらしさが最も現れた作品でしょう」

 リストは故郷ハンガリーの水害の際にも多くの寄附をして人々を助けていた。そんなリストの人柄も偲ばれる作品だ。

 「また“交響詩オルフェウス”の編曲では、とても知的で感受性に溢れたリストの真価に触れるような気がします」

 東京藝術大学奏楽堂の豊穣な響きの中に、リストの音楽性を偲び、しばし我を忘れて居たい、と思わせてくれる貴重なアルバムだ。

 


LIVE INFORMATION
上野の森オルガンシリーズ2024「イン・パラディスム(楽園へ)~親愛なるフォーレ 没後100年に寄せて」

2024年10月26日(土)東京藝術大学奏楽堂
開演:15:00
https://www.kinginternational.co.jp/concert/20240710-4/

チャペルコンサート 「ファンタジーを求めて」
2024年11月16日(土)恵泉女学園大学チャペル
開演:14:00
https://www.kinginternational.co.jp/concert/20240710-5/