サザンオールスターズが新曲“ジャンヌ・ダルクによろしく”を配信リリースした。同楽曲はTBS系スポーツ2024のテーマ曲として、この夏にパリで開催されたオリンピック/パラリンピックを盛り上げただけでなく、日常を生きる人たちを鼓舞するロックソングとしても受容され続けている。

そんな王道のサザンを打ち出した“ジャンヌ・ダルクによろしく”を、ライター/編集者の内田正樹にレビューしてもらった。2024年9月23日(月・振休)の最後のロッキン出演を前に、ぜひ熟読してもらいたい。 *Mikiki編集部

サザンオールスターズ 『ジャンヌ・ダルクによろしく』 タイシタ(2024)

 

オリンピックだけに限定されない汎用性と訴求力を備えたロックナンバー

〈All I Want To Do Is ドキドキEmotion/夏の魂が燃えてるよ〉〈All You Gotta Do Is 酔わせてPassion/此処は女神が舞うところ〉。抜けのいいギター、オルガン、ピアノと盤石なリズムのアンサンブルが絶妙だ。躍動感溢れるリリックとキャッチーなサビが、ニュース映像のなかで奮起するパリオリンピック/パラリンピックのアスリートたちのドラマを盛り上げた。

“ジャンヌ・ダルクによろしく”は、TBS系スポーツ2024テーマ曲として起用されているサザンオールスターズの新曲だ。“ロックンロール・スーパーマン〜Rock’n Roll Superman〜”に代表されるサザン特有のドライブ感を誇るミドルテンポのロックナンバーに加わった新たな快作である。

サザンは、9月9日、TBS系「CDTVライブ!ライブ!」に初出演し、“ジャンヌ・ダルクによろしく”と“恋のブギウギナイト”の2曲のパフォーマンスを披露したのだが、この番組内のインタビューで桑田佳祐は“ジャンヌ・ダルクによろしく”の制作エピソードについてこう語っている。

「ロックンロールとアスリートを掛け合わそうとしたが、最初はちょっと上手くいかなかった」「でも、女性(=女神)という発想から、パリ、革命(=ジャンヌ・ダルク)と繋がった」「お仕事として堅苦しく、ではなく、我々が普段通りに感じていることを書き連ねて楽しめれば、アスリートさんたちの気持ちに寄り添えるんじゃないかと思った」(※全て抜粋/要約)

こうした発言や、〈汗と涙のRock And Roll Band/昔話をするようで悪いけど〉〈ちょいと見た目は頼りない/そんなオイラが奏でる“Johnny B. Goode”〉といったリリックによる舞台設定の通り、この曲は、年長者のロックバンドというスタンスから綴られたアスリートたちへのエールである。

サザン/桑田によるオリンピック関連のシングル曲としては、過去にもサザンの“東京VICTORY”(2014年)、ソロの“SMILE〜晴れ渡る空のように〜”(2021年)があったが、そこはさすがの桑田佳祐。今回も国際的祭事を背景としたタイアップという、ある意味、強烈なカロリーとプレッシャーが伴うお題のボールを、〈此処(ここ)〉〈祭典(おまつり)〉〈熱いステージ〉〈GOAL〉とオリンピックの晴れ舞台を直感的にイメージさせるワードを散りばめたロックナンバーとしてフルスイングで打ち返した格好だ。

しかも、それでいてこの曲のリリックは、アスリートやオリンピックという単一のモチーフに限定されない汎用性と訴求力をも備えている。飽くなき挑戦に臨む〈夏の魂〉の物語は、いままさに何かに挑もうとしている多くのリスナーにとってのテーマソングと成り得るだろうし、〈虹を掴むまで辞めれない〉〈後で悔やみたくない〉は、年齢や境遇にとらわれず人生を邁進せんとする幅広いリスナーに響くはずだ。

そして、〈歌は平和を奏でる武器でしょう〉というくだりは、〈平和の祭典〉と言われる近代オリンピックのルーツとも言える古代ギリシアの〈平和の休戦〉や、桑田が愛してやまない1960〜1970年代のロックミュージックが本来担っていた機能性のひとつをも想起させる。

 

最後の夏フェス=ロッキンでのパフォーマンスにも期待

ここで着目したいのが、前述の「CDTVライブ!ライブ!」で桑田が呟いていた、「(見えない力によって曲を)書かされてるんじゃないかと思うときがある」という一言だ。世相の観察者として独自の批評眼を持つ桑田のこと、〈歌は平和〜〉のくだりには、いまだ予断を許さないウクライナ情勢も意識的に(もしくは無意識的に)作用したのかもしれない。おまけに、同番組内でも紹介されていたが、パリオリンピックの開会式では、セレモニーの終盤、ジャンヌ・ダルクを思わせる女性騎士がロボットの馬に乗ってセーヌ川を疾走。楽曲と現実の思わぬシンクロは桑田にとっても大きな驚きだったそうだ。

さらに〈祭典〉と言えばロックフェスだ。既報の通り、サザンはキャリア史上〈最後の夏フェス出演〉を宣言して、9月23日、〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024 in HITACHINAKA〉のステージに立つ。思えば2005年、桑田はサザンでの同フェス出演にあたって、オーディエンスと盛り上がるための必殺ナンバーとして“BOHBO No.5”を書き下ろしたという経緯がある。本稿は同フェスよりも前に執筆しているのであくまで憶測でしかないが、もしや、あらゆる意味でメモリアルなステージになること必至の同フェスでのプレイまでをも見据えた“ジャンヌ・ダルクによろしく”だったのかも?と深読みしてしまったのは筆者だけだろうか。