サザンオールスターズが、最新アルバム『THANK YOU SO MUCH』を引っ提げた全国ツアー〈LIVE TOUR 2025「THANK YOU SO MUCH!!」〉を完走した。5万人が東京ドームで熱狂した5月29日のツアーファイナルの公式レポートが到着した。
『THANK YOU SO MUCH』から1stアルバムまでの楽曲が並ぶ最新のサザンライブ
5月29日、時刻は18:30。客電が落ちると東京ドームを埋め尽くした約5万人の拍手が一気にうねり、サポート陣に続いて野沢秀行、関口和之、原 由子、松田 弘──そして最後に桑田佳祐が姿を現す。ギターを肩に掛け、客席に向けて手を振りながら時に丁寧にお辞儀をし、マイクの前に立つ。深く息を吸い込んだ桑田が「はぁ」というため息に続いて歌い始めた1曲目は“逢いたさ見たさ 病める My Mind”。静かに、しかし力強くライブの幕が開ける。
1982年発表の5thアルバム『NUDE MAN』に収録された、主人公が電話に出ない相手に漏らすため息で始まるこの楽曲。もどかしい恋の悩み、切なさを真正面から掬い取るサザンの原点を示すような一曲に、長年のファンは胸を締めつけられ、新世代のリスナーは聞き惚れる。アウトロで桑田が「THANK YOU SO MUCH!!」とツアータイトルを高らかに叫び、野沢が刻むカウベルのビートが聞こえてくると、オーバードライブを噛ませた硬質なギターと躍動するピアノが鼓動を高鳴らせるロックチューン“ジャンヌ・ダルクによろしく”へ。真紅の引き幕が割れ、眩い照明が拡がり、銀テープと共にスクリーンには〈SOUTHERN ALL STARS〉の文字が。この一撃で、切なさに揺れたドームが一気に興奮のるつぼに様変わり。脈々と受け継がれるロックの遺伝子を今のサザンが全身で轟かせる――そんな凄みと清々しさが同時に漂う、まさに〈熱いステージが始まる〉瞬間だった。
「こんばんは! 6年ぶりに帰ってまいりました。THE ALFEEより年下のサザンオールスターズです!」──軽妙なあいさつで観客を和ませると、“せつない胸に風が吹いてた”“愛する女性(ひと)とのすれ違い”と1980〜1990年代の名曲を畳みかけ、ドームにノスタルジーと高揚感を同時に呼び込む。青い照明と波音が広がり、おなじみのシンセが海面の煌めきを描くと大歓声が上がる。松田が刻むタイトなビートに呼応する関口のベースが心地よい“海”だ。
続く“ラチエン通りのシスター”では愛しくも切ない桑田の歌声が響き、“神の島遥か国”では琉球衣装のダンサーの軽やかなステップに客席全体が大きく腕を振って応え、会場が常夏の楽園に。そして、前半の大きな見せ場となったのは“愛の言霊(ことだま)〜Spiritual Message〜”。イントロが始まると割れんばかりの大歓声が湧き上がり、燃え上がる炎とブラス隊の重厚なアレンジ、ダンサブルなリズムに繰り返される〈抒情詩(せりふ)〉が観衆の魂を揺さぶる。

「10年ぶりのアルバムをリリースいたしました!」──桑田の言葉とともに、新作『THANK YOU SO MUCH』のジャケット写真がセンターのビジョンに大きく映し出され、アルバム収録の楽曲が披露される新曲コーナーへ。2025年の元旦に配信された“桜、ひらり”では、水彩画のような淡い桜のイメージがスクリーンに映し出され、被災地への祈りと未来への希望を浮かび上がらせた。続く“神様からの贈り物”は、軽やかなギターのカッティングとリズムセクションが生み出すモータウンビートが高揚感を誘う一曲。スクリーンには尾崎紀世彦や坂本九、永六輔ら偉大な音楽人の映像や写真が次々映し出され、バンドの歩みが偉大な先人達の系譜の中にあることを視覚的に訴えかけると同時に、彼らの創造してきた音楽の先に現在のサザンがあるということに胸が熱くなる。
続いて披露されたのは、現代の異常気象や今もなお海の向こうで続く紛争を憂う“史上最恐のモンスター”、少ない音数だからこそ歌詞に聞き入り、紡がれた言葉の一つ一つが胸の奥にグッと入り込んでくる“暮れゆく街のふたり”。そしてこの新曲コーナーの最後を飾るのが、原 由子がリードする“風のタイムマシンにのって”。鎌倉〜江ノ島の海辺の映像と共に爽やかな風を吹かせると、楽器を持ち替えアコースティックセットに。1stアルバム『熱い胸さわぎ』より、ボサノバ調の“別れ話は最後に”で成熟したアンサンブルを聴かせる。
曲目をあえて言わず桑田がひとりアコースティックギターをかき鳴らしてスタートしたのは“ニッポンのヒール”。会場を盛り上げた勢いそのままに、軽快なリズムと共に始まるメンバー紹介。一つのグループが、時に立ち止まることがあったとしても、47年もの間続き、今も多くの人々に愛され続けていること、それ自体が奇跡のようなことだ。熟練のバンドならではの味わいのあるメンバー紹介に、そんな思いも重なって胸がいっぱいになる。