サザンオールスターズの通算16枚目となるオリジナルアルバム『THANK YOU SO MUCH』がリリースされた。前作『葡萄』から10年ぶり、総制作期間21ヶ月をかけた本作は、従来のサザン節を堪能できると同時に〈令和初のサザンのアルバム〉として随所に革新的なアプローチも施された作品となっている。
そんなサザンのニューアルバム発売を記念し、タワーレコードスタッフ22名が『THANK YOU SO MUCH』を聴き、思い思いの言葉を綴った。タワレコからサザンへ、そして全サザンファンへ贈る感謝のコメントを、ぜひ熟読してもらいたい。(Part 2はこちら) *Mikiki編集部
柴野直史(第一店舗統括部)
変わるものと、変わらないもの。
創業当初から変わらない味を提供している人気老舗でさえ、この10年は特に苦しかったと聞く。
デビュー45周年〈茅ヶ崎ライブ2023〉で約束された次なる計画、楽しい逢瀬の報告は、次々と放たれ、遂には10年ぶり16枚目のアルバム『THANK YOU SO MUCH』まで発表された。この間にシングルのカップリングを中心に、なかなかTVやラジオでは聴こえてこなかった出会いそびれの自分的名曲の掘り起こしを行い、「この曲知ってる?」的な、また点と点が繋がる楽しさを堪能した。配信やタイアップなどで徐々に輪郭が見えはじめた中で届いた新作は、しっとりとしたノスタルジックなメロディーあり、エキゾチックディスコあり、ミディアムスローあり、70年代風ポップスあり、ブルースロックあり、エロティックあり、極めつけはデビュー前に書かれていた曲まである。また歌い継がれる名曲群がここから誕生するのだろう。日々の進化なくして、「変わらない味は守れない」と言うは易く行うは難し。なんだか希望をもらえた。「THANK YOU SO MUCH」。
土井仁志(あべのHoop店)
膨大な制作期間を経て、満を持して世に放たれる10年ぶりとなるアルバム! 日本中が待ちわびたであろう本作品を語るのは大変おこがましいのですが、少しだけご紹介させてください!
まずは、配信シングルとしてリリースされていた“恋のブギウギナイト”でご機嫌にスタート。EDMを取り込んでサザン節が繰り広げられていく軽快でカラフルなスルメサウンドが先陣を切ります。そして一転して、クールなギターリフでど真ん中に突っ込んでいくロックンロールナンバー“ジャンヌ・ダルクによろしく”の流れが、いきなりですが最強! 最高の幕開けに胸が高鳴ります。繊細なメロディーを彩るキーボードの音色が、すぐそこに迫る〈穏やかな春〉の訪れを知らせてくれるかのような“桜、ひらり”。〈昭和〉、〈歌謡曲〉への深いリスペクトと愛が注ぎ込まれる“暮れゆく街のふたり”の哀愁漂う旋律のわびさびに耽っていると、“盆ギリ恋歌”で別世界へ。♪盆ギリ盆ギリ夏は盆ギリ~、もう耳から離れません! 気づけば一緒に合いの手シンガロング、とここまでまだ5曲!? 濃密、怒涛の展開です。
序盤で言葉が迸ってしまいましたので、ここからは心を落ち着かせてご紹介させていただきます。原 由子さんが歌う、タイトル通り爽快な未来に滑り出していくかのような“風のタイムマシンにのって”の透明感漂うサウンドにグッときて、軽快にサザン節が炸裂するこれぞ〈国民的ロックンロールナンバー〉“夢の宇宙旅行”でテンションは最高潮へ。〈御守りはIggy Popのサイン〉の一節をはじめ、紡がれる言葉の数々がとにかく格好良く、耳に刻まれていきます。ロックシンガー桑田佳祐が堪能できる“悲しみはブギの彼方に”、日本中で大合唱が聴こえてきそうな“歌えニッポンの空”と、またまた止まらなくなってしまいそうなのでこの辺りで……。〈国民的ロックバンド・サザンオールスターズ〉による、ぎっしり至福の詰まった全14曲となっております!
藤瀬雅文(京都店)
子供の頃、初期5作品あたりのサザンをよく聴いていたので、サザンと言えば初期のイメージが強い。自分と同じ年月を重ねたメンバーによって制作された本作の楽曲たちを堪能していたところ、本作に収録された⑪“悲しみはブギの彼方に”を聴いた瞬間、子供の頃に聴いた事があるような感覚に襲われた。この“悲しみはブギの彼方に”はデビュー前のサザン最初期に作られていた楽曲だという。どうりで子供の頃にサザンを聴いた時のような感覚が蘇るのも不思議ではないが、スワンプのグルーヴ溢れるこの曲から切れ目なく始まる⑫“ミツコとカンジ”にもやられた。レゲエのビートを刻むこの曲も初期の感覚を持った懐かしさを感じてしまう1曲。そして続くソウルな⑬“神様からの贈り物”で涙が出た。初期の頃から先人達をリスペクトしてやまない桑田佳祐の真骨頂のようなこの楽曲も素晴らしい。この3曲だけでもしっかりサザンを堪能できるのに、あと11曲も加えたアルバムの全体像はまさに壮観。子供の頃からだいぶ歳を重ねて聴く新作は、完璧な演奏に裏打ちされた驚異的な完成度を持ち、サザンの歴史を聴くようなバリエーション豊かな楽曲を収録した、改めてサザンの良さを確認できる、そんな良質なアルバムに仕上がっている。
東木塲龍矢(京都店)
これから初めてサザンのニューアルバムをレジします。
初めてサザンを耳にしたのがいつだったかは覚えていません。
能動的に聴くほど夢中になったのも、タワレコで働き始めてからのここ4年くらいのことで。
『キラーストリート』を今聴くととても懐かしい気持ちになるのは、幼いころ知らぬ間に耳に飛び込んできていたからなんでしょう。
そんなサザンを好きになってから初めてのオリジナルアルバムは、どこかベストアルバムのような雰囲気を感じました。
それは世にいうベストアルバムではなく、これまでのサザンオールスターズが表現してきた音楽の総まとめ的な、そんな感じが。……あ、それがベストアルバムか。
デビュー前の未発表曲であった“悲しみはブギの彼方に”が2025年に、今作に収録される事実がその要素を色濃くさせている気がします。
なんといってもこの曲、桑田さんが発声をデビュー当時の歌声に寄せているような気がするんです。実際寄せたのか、寄ってしまったのかはわかりませんが、あの太くずっしりとした声色が、まだ手札にあるのか桑田佳祐……と衝撃をうけました。
続く“ミツコとカンジ”では打って変わって、令和の桑田さんの素晴らしい歌声が聞こえてきます。楽曲自体のニュアンスは前曲から地続きでありながら、ボーカルは対比している。
まさにこれまでの長いキャリアをぎゅっと閉じ込めたような2曲は、『THANK YOU SO MUCH』で必聴なポイントかもしれません。
タワレコで働いている間に、サザンオールスターズの新譜を販売できること、これかなり嬉しいですよ。
タワレコで働いていてよかった、サザンを好きで良かった。
また、サザンのニューアルバムをレジさせてください。