サザンオールスターズの通算16枚目となるオリジナルアルバム『THANK YOU SO MUCH』がリリースされた。前作『葡萄』から10年ぶり、総制作期間21ヶ月をかけた本作は、従来のサザン節を堪能できると同時に〈令和初のサザンのアルバム〉として随所に革新的なアプローチも施された作品となっている。

そんなサザンのニューアルバム発売を記念し、タワーレコードスタッフ22名が『THANK YOU SO MUCH』を聴き、思い思いの言葉を綴った。タワレコからサザンへ、そして全サザンファンへ贈る感謝のコメントを、ぜひ熟読してもらいたい(Part 1はこちら)。 *Mikiki編集部

サザンオールスターズ 『THANK YOU SO MUCH』 タイシタ(2025)

 

森田祐介(梅田NU茶屋町店)

10年ぶりのアルバムと聞いて、もうそんなに経っていたか!?と驚くくらいには、あまりに普段の生活に馴染んでいるサザンオールスターズの音楽。とはいえ、やはり新しいアルバムを聴くときはどうしても緊張するのがファン心理というもの。既にテレビや配信リリースで聴いていた“恋のブギウギナイト”“ジャンヌ・ダルクによろしく”“桜、ひらり”といった楽曲たちに出迎えられながら、徐々に新曲たちに触れていく。マイナー調でしっとりとした歌謡テイストの“暮れゆく街のふたり”、エレクトロなサウンドとナマのギターサウンドのバランス感が絶妙な“ごめんね母さん”、軽やかな口笛が印象的な、原坊歌唱の“風のタイムマシンにのって”……。一癖も二癖もあるサザン節炸裂な楽曲が目白押し。これは間違いない、大名作の予感。そしてアルバムの折り返しは、個人的に今作で一番気に入っている曲“史上最恐のモンスター”。物騒なタイトルとは裏腹に、ユーモアに満ちた展開、オリエンタルなサウンドも顔を覗かせる意欲作。しかし歌詞を聴いてみれば、世界が悲喜交々であることを、ユーモラスに、しかしシリアスに、痛烈に歌い上げている。この多面性こそが〈国民的〉という形容詞がもっとも似合うこのバンドの本領であるとしみじみ思う。多面的でありながら、ブレないサザンらしさ。多面的であるがゆえに沢山の人の心を打ち、ブレないがゆえに長く愛される。全14面、すべてがストライクのパーフェクトゲームなアルバムをありがとう!

 

島崎秀之(名古屋近鉄パッセ店)

私が出会った時には既に〈国民的アーティスト〉として音楽シーンの第一線で活躍していたサザンオールスターズ。

街中やテレビで楽曲の多くを耳にし、タイトルまでは分からぬとも知っている曲が数多く溢れていた。

前作の15作目のオリジナルアルバム『葡萄』の頃は既にタワーレコードに従事していた為、店頭で待望のアルバムに胸をときめかせながら購入される多くのお客様のうれしそうな様子、反応を目にした。知っている曲はたくさんあるものの、アルバムを通して聴いたことが無いことに気付き「自分も是非とも聴いてみよう」と初めて購入した作品だ。大人な歌詞と綿密なサウンド、そしてやっぱり桑田さんの歌声! その後、改めて知っている曲を含めた過去作品を聴き込み、歌詞の意味や様々なジャンルを取り込んだ音楽性など、知らなかった〈サザンオールスターズの凄さ〉を思い知ったと同時に改めてサザンの魅力を実感した。

あれから10年、待望の最新アルバム『THANK YOU SO MUCH』を聴かせて頂いた。多岐にわたる音楽ジャンルをベースに、踊りだしたくなるグルーヴやルーツである歌謡曲のスパイスが絶妙に組み合わさることで生まれるサザンらしさ。音楽にとにかく貪欲な5人だからこそ為せる業である。作品を聴き終えた時、また素晴らしい作品と出会えたこと。元気に活動してくれるサザンオールスターズに「ありがとう」と呟いた。こんなにも人々に元気を与えてくれる音楽に出会わせてくれる、サザンオールスターズがいるなら、この先は何も怖くない。これからもサザンと一緒に人生を歩み、成長していきたい。

 

平林大樹(池袋店)

幅広い世代から愛されるサザンオールスターズの中でも、40代の私にとっては、『世に万葉の花が咲くなり』~『さくら』、そして“波乗りジョニー”へと続く桑田さんのソロ時代も含む90年代のサザンこそ正に世代。

当時の小学生にとっては卑猥な大人の歌詞も理解半ば、軽快なモータウンビートに乗せた“太陽は罪な奴”を始め、確立された正に桑田節炸裂なメロディーラインとキラーフレーズにはとにかく音楽の楽しみ方を学ばせていただきました。

そんな世紀末のサザンによる『さくら』収録の“湘南SEPTEMBER”はサザン楽曲の中でも湘南を唄うレアな一曲、夏の終わりと切なさが嚙み合ったとても好きな一曲です。

新作『THANK YOU SO MUCH』からは原点を感じさせる“悲しみはブギの彼方に”など注目ポイントも多いですが、これぞと言わんばかり、軽快なポップナンバーが好きな方にはど真ん中の“夢の宇宙旅行”でこれまでのサザンに思いを馳せております。

 

加藤信喜(名古屋パルコ店)

サザンを初めて聴いたのはいつだったのか?

今回のコメントを書かせていただくにあたって、ふと考えてみたけれども、うまく思い出せず。
まだ小さな時に、両親がカーステで流していたのを聴いたのか。それとも小学生の頃に、某バラエティ番組で使用されていたのを聴いた時だったのか。

記憶を遡っていて懐かしく思い出したのは、当時最新であった16和音の着メロに、選りすぐった曲を入れるぞと意気込んで、“希望の轍”を入れていた自分。

大抵のアーティストは、初めて聴いた時のことを憶えているはずなのに、なぜかサザンについては、不思議と思い出すことができず。そしてそれはサザンの音楽が、いつも日常の中で当たり前に〈身近にあった〉からだと思う。

10年ぶりとなる今回のアルバムを聴いてみて、今作は〈タイムカプセル〉のようなものだと感じました。
このタイムカプセルには、サザンが大切にしてきたもの、好きなもの、癒えぬ(言えぬ)悲しみ、そして未来へと託す想いが、たくさん詰め込まれているのだと。

“神様からの贈り物”では、桑田さんが先人たちへの感謝を歌っているが、このタイムカプセルもまた、100年後に開けられる時が来て、聴いたものを豊かにさせる。そんな一枚になるのだと思います。