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〈トラックメイク1年生〉の井上惇志によるビート

――一方で、サウンド面は挑戦に満ちたものになっています。

井上「僕らはステージで演奏してきた経歴があったんですけど、トラックメイカー的な音源を作る能力が足りていなかったんです。今まで生で録ったものをトラックっぽくしようとしたり、バンドの音と打ち込みの音を混ぜたりしていたんですけど、自分はDAWをいじるのがすごく苦手で。

今回初めて自分の作品でMIDIを使ったかも(笑)。MIDIが大嫌いで、MIDIでやるより100回録り直す方が早いと思っていました(笑)。外の仕事でもMIDIで納品したのは1、2作品くらい。go!go!vanillasのレコーディングに関わっていく中で、ボーカルの牧(達弥)から〈あとで音色をリコールしたいからMIDIでもデータが欲しい〉というリクエストがあり、それで慣れてきたという感じです。

それにトラックメイクをしていたといってもビートまで全部作ってはいなくて、ビートはMPCの人に頼んだり、バンドで録ったものに後付けすることが多くて。今回の“violet”も、デモを作ってから別のプロデューサーにブラッシュアップしてもらおうと考えていたんです。でもトラックを作ってみたら根津が〈意外とカッコいいじゃん〉と言ってくれて(笑)」

根津「そんな上からじゃないよ(笑)」

井上「いろんな人からも〈カッコいいよ〉と言ってもらい、自分でトラックメイクしてみようと思って“liquid”、“siren”を作りました。“fruit”は生で録ったんですが、ビートはほとんど打ち込みで仕上げていますし、“metro”や“escape”もプロデューサーに投げる前にある程度デモでビートを作っています。2年前にシングルで出した“summer magic”はアレンジをお願いしたA.G.Oくんに投げる前に初めて自分でビートを組んでみた曲で、キックなどの音色は差し替えつつパターンはそのまま使ったりしています。そうやって少しずつ打ち込みアレルギーが薄れていきました。

だからこの作品はトラックメイク1年生的な、自分たちだけで作ったらどういうものが出てくるか試した結果のアルバムなんです」

 

最新UK音楽の温度感から受けた影響

――そういった変化に向かうにあたって何か外部の影響はありましたか?

井上「AIR-G’ FM北海道で毎週選曲する番組(『MUSIK BARISTA』)をやっていたのも大きいです。選曲する上でいろんな音楽を聴いていたんですが、自分たちは特にUKのアーティストにハマっていて。タフでアップテンポないかついダンスミュージックというより、ジャズなどのアコースティックな要素も混じりつつ温度感が低い、しなやかに揺れるサウンドの音楽ですね」

――たしかに『liquid city』はダンサブルではありますが、タフさは感じません。具体的にどのようなアーティストにハマっていたんですか?

根津「ヘンリー・グリーン(Henry Green)が本当に好きで。選曲をしている中で出会ったときから虜になりました。カーモディ(Carmody)との出会いも大きかったな」

井上「あとはライブも観に行ったプーマ・ブルー(Puma Blue)、久しぶりにアルバム(『This Ain’t The Way You Go Out』)を出したルーシー・ローズ(Lucy Rose)、マリー・ダールストロム(Marie Dahlstrøm)、シプレル(Sipprell)とか 」

根津「ルーシーはもともと好きで、来日もしているし、アニメ『蟲師 続章』の主題歌(“Shiver”)をやっていたり、日本でよく聴かれているアーティストですが、私が出会ったときはアコギの弾き語りがメインだったんですね。

だからそのイメージが強かったんですけど、久しぶりのアルバムの先行曲を聴いたらピアノサウンドに変わっていたんです。しかも自分でピアノを弾いていて。その変化がカッコよくて、変化していくことの素晴らしさに感動したんですね。それが自分たちも変化を恐れず頑張りたいと思ったきっかけの一つになっています」

井上「僕の場合は特定のアーティストからの影響というよりは、いいなって思う温度感の曲がUKのアーティストの曲だったという感覚です。ジャズやソウル、R&Bの要素がありながら中庸的な部分があったり、温度感や熱量が低いけど無機質ではないバランスが通底してあって。その辺のサウンドに影響を受けつつ、今自分がやりたいものもその温度感のものだったんだと思います。

あとgo!go!vanillasのレコーディングで去年の10月にロンドンに行って、メトロポリス・スタジオで録ったんです。その経験が感覚的にしっくりきたんですよね」

――今回のテーマカラーが青というのもUKの音楽と重なる気がします。