仕事はポンコツだけど、音楽だったらできるかな
──活動のきっかけになったオリジナル曲の発表会に話を戻しますけど、生まれて初めてなのによく曲が書けましたね。
「でも、曲はよくありそうな感じのばかりでした。メロディと歌詞は自分で考えて書きましたけど、コードは気がついたら“北の国から”と同じみたいなこともありました(笑)」
──実家にピアノがあって子どもの頃から弾いていたんですよね? だからコツをつかめばすぐできるような基礎はあったのかも。
「いや全然。曲ってメジャーコードとマイナーコードを繰り返して作るのかな、みたいな感じで作っていました。自分で好きで聴いてたのは洋楽ばっかりで、日本語の曲のカバーもあんまりしたことがなかったですし」
──そんなところからどうやってkiss the gamblerのあの歌の世界ができあがっていったのか、不思議に感じる人は少なくないと思うんです。
「ファーストアルバム『黙想』(2021年9月)を出したときは、自分では変な曲ばかり出してるなと思ってました。誰かに聴かれてると思わずに曲を作ってたから、子どもの頃の自分の思い出みたいなものが結構歌詞に出てきてた気がするんです。
セカンド『私は何を言っていますか?』(2023年4月)に入れた新曲からは、誰かに聴かれていることを前提に作っていたので、メッセージ性のあることを言わなくちゃいけないのかな、みたいな意識がありました」
──ファーストには“サマーサンライズ”や“ジンジャー”といった人気曲がすでに入ってますよ。
「そうですねえ。でも、ファーストは完全に〈ひとりごと集〉なんです。でも、“サマーサンライズ”のMVを発表したときに検索したら、好きだってつぶやいてる人がいるのがわかって、だんだん手応えみたいなものを感じていった感じです」
──僕の最初の印象としては、kiss the gamblerはとても独立心の強い人でした。ライブごとにCD-Rをどんどん作って積極的に物販したり、自分のライブと作品で稼いで、自立してやっていくと決めているんだなと思ったのを覚えてます。
「会社員をやりながら音楽をやってた時期は、仕事をしている間は音楽のことがまったくできないのが嫌だったんです。すでに私は20代後半だったから、急がなくちゃと思ってました。なので会社を辞めてからもアルバイトの時間を増やすのではなく、自分の物販をやっていくほうが時間も無駄にならないしお金も稼げるかなと思ってやってました。それで生きてはいけてたので、わりとうまく転がっていたと思います(笑)」
──つい2、3年くらい前に始めた音楽なのに、それにすべての時間を注ぐ込むと決められたのはすごくないですか?
「音楽以外の仕事がポンコツすぎて(笑)。音楽では少し褒められることがあったから、それに光を感じていたんです。これだったらできるかな、みたいな」
自分のことを吐き出し終えたあとに迎えた変化
──そして、しばらくして本さんとの出会いがあって雷音レコードから作品をリリースするようになった、と。本さんは、今もkiss the gamblerの最大の理解者だと思います。かなふぁんが音楽で漠然とやりたいと思っていたことを受け入れて、ミュージシャンの起用など具体的に前に進めてくれる存在だったわけだし。
「そうですね。『黙想』の時点では友達の友達を紹介してもらって、というかたちでしか輪が広がらなかったけど、雷音では本さんの後押しもあって、谷口(雄)さんみたいに実際に音楽を仕事にしている人たちに関わってもらうことでレコーディングでも自分が持ち上げられる感じがすごかった。みなさんに教わることも多かったです」
──『私は何を言っていますか?』からも“台風のあとで”や“ばねもち”など、キスギャンクラシックとなっている名曲が多く生まれてます。
「ただ、セカンドの曲の半分は『黙想』を作ってた頃にできていたんです。セカンドを作った年(2022年)は、あんまり新しい曲ができなかったんですよ。たぶん、3曲くらいしか作ってない。それまでは回顧というか、自分の昔話から曲を作ってたので、もう過去は吐き出し終わっちゃってるのでネタがない(笑)。2022年に起きたことだけだと、3曲だけだったんです」
──率直すぎる(笑)。
「でも、今回の『Relax!』を作るために、今年に入ってからは他人のことも歌にするというか、曲のテーマが自分のことだけじゃなくなってきたという感じです」