タワーレコード新宿店~渋谷店の洋楽ロック/ポップス担当として、長年にわたり数々の企画やバイイングを行ってきた北爪啓之さんによる連載〈聴いたことのない旧譜は新譜〉。そのタイトル通り、本連載では旧譜と称されてしまった作品を現在の耳で新譜として紹介していきます。

第9回は、今年デビュー40周年を迎えた米米CLUBを大特集。10月22日にリリースされたベスト盤『愛米 〜FANtachy selection〜』の収録曲、そして同作には未収録の楽曲から北爪さんが独自の視点で選んだ7曲について、その魅力を熱く綴ってもらいました。 *Mikiki編集部

★連載〈聴いたことのない旧譜は新譜〉の記事一覧はこちら

米米CLUB 『愛米 〜FANtachy selection〜』 ソニー(2025)

 

2025年でも新しく感じる米米CLUBの必聴ソング

米米CLUBのデビュー40周年を記念したベストアルバム『愛米 〜FANtachy selection〜』がリリースされた。公式サイトのファン投票によって決まった上位20曲と、これまでバンドに関わってきたスタッフが選んだ20曲の計40曲。それをCD 3枚組に収めた特盛りの内容だ。

今回の記事では、その40曲の中から〈いま聴いても再解釈や新しい視点が持てる〉ことを基準にした4曲をセレクト。加えて、惜しくも選外になってしまった曲から、この機会にぜひレコメンドしたい3曲も厳選。計7曲の(あまり取り上げられる機会がなさそうな曲多めの)必聴ソングレビューをお送りしたい。

 

“I・CAN・BE”(1985年)

米米CLUBにとって記念すべきデビューシングル。この曲の持つある種の軽薄さというのか、1985年というバブル前夜に浮き足立つ水商売的なスメルは、40年を経た現在だからこそ香しく新鮮である。骨子はグラマラスなシンセポップで、途中でカールスモーキー石井がオールドスクールなラップを披露していたりもする。けれど翳りのあるマイナー調のメロディーはじつに歌謡曲っぽくやるせない。その洒脱と下世話が拮抗した絶妙なアンビバレンツぶりと、確信犯めいた軽やかさこそが初期米米CLUBの得がたい個性なのである。

1991年にはスタイリッシュなアレンジで再録されているが、当然いま聴くべきは80sという時代の煌めきといなたさを見事に封印したオリジナルバージョンである。

 

かっちょいい!”(1985年)

ジェームス小野田をメインに据えたダンサブルなファンキーチューンが米米CLUBの魅力の一端を担っていることは言うまでもない。むしろ初期においてはこうしたアッパーなファンク路線こそが、ライブの破天荒な雰囲気をより明瞭にパッケージングしていたという意味でバンドの本懐のように思える。それゆえ今回のベスト盤で同系統の楽曲がほかに選ばれていないのはいささか寂しい(せめて“美熱少年”は入って欲しかった)。

“かっちょいい!”をいま改めて日本語によるニューウェイブファンクとして聴いてみると、じゃがたらの“裸の王様”あたりと並べたって別段おかしくないラジカルな享楽性に満ちているのである。

 

“トラブル・フィッシュ”(1986年)

一夜を共にする女性を囚われの魚にたとえた歌詞と相俟って、カールスモーキー石井の艶めくダンディズムに濡れそぼる珠玉のメロウダンサー。当時の洋楽との同時代性を考えるうえでも最良のテキストとして選んだのだが、それはこの曲がUKのバンド、ブロウ・モンキーズがわずか数か月前にリリースした“Digging Your Scene”をオマージュしていると思って間違いないからである。

前回取り上げたおニャン子クラブもそうだが、1980年代の邦楽ポップスは洋楽からの影響を僅かなタイムラグで自家薬籠中のものにしてしまう抜群のセンスとスピード感を有していたのだ。ちなみにボーカルのドクター・ロバートのやりすぎなほどキザな振舞いも石井のパフォーマンスに影響を与えていそうな気がする。