10月4日 ソニックシティ公演より
©steichen tokyo 飯田耕治

オペラ初出演の八木勇征、語り・殺陣で〈諸行無常〉の世界観を表現
高水準の制作・出演陣、物語の普遍性を示す

 平氏の栄枯盛衰を描いた日本文学史上の傑作を原作としたオペラ「平家物語-平清盛-」(作曲:酒井健治、脚本:田渕久美子)が10月4・5日、埼玉・大宮のソニックシティで世界初演された。FANTASTICS from EXILE TRIBEボーカルの八木勇征がオペラに初出演することで注目を集めたこの作品は、ただ源平合戦の推移を描くだけでなく、高水準の脚本、音楽、演奏、演出によって〈男女の対比〉を浮かび上がらせ、今の時代における〈普遍性〉を見事に示した。

 このオペラで八木の役どころは二つ。一つは物語の語り部としての琵琶法師、もうひとつが物語の中で随所に登場する武神だ。いずれも平家物語の世界観を表現し、聴衆を物語に引き込む重要な役割である。

10月4日 ソニックシティ公演より
©steichen tokyo 飯田耕治

 八木は作品の第一幕冒頭に琵琶法師として登場した。琵琶をかき鳴らしながら、あまりにも有名な「祇園精舎の鐘の音 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす」の名文を努めて抑制的な語り口で表現し、いきなり存在感を示した。舞台における鮮やかな朱色の階段と黒装束の琵琶法師のコントラストが、後に訪れる平家の栄華と転落を示唆するかのようだ。

 琵琶法師は太政大臣となって権勢を振るっていた平清盛と後白河法皇との対立が決定的となった第二幕の冒頭、そして清盛が源氏に敗れ、壮絶な死を遂げた舞台の最後にも登場。物語の重要な節目において、舞台の方向性を指し示す役割を担った。

 この琵琶法師の役は田渕が「歌なし、オペラ歌手でないキャストでやりたい」と熱望した役柄だった。平家物語における〈諸行無常〉の世界観を体現した八木は、まさにこの役に適任だったと言えるだろう。

10月4日 ソニックシティ公演より
©steichen tokyo 飯田耕治
10月4日 ソニックシティ公演より
©steichen tokyo 飯田耕治

 もう一つの武神役も、物語が動く重要な場面でアクセントになっていた。平家は〈水鳥の羽音〉を源氏の侵攻だと思い込み、恐れおののいて敗走した。その直後、清盛の逆鱗に触れた息子の重衡に対し、武神が刃を突きつける場面は印象に残った。

 そして舞台の最後には、複数人を相手にした圧巻の殺陣を披露。殺陣の立ち居振る舞いの美しさは、清盛が死んでも源平の争いや憎しみの連鎖が続くことへのむなしさ、切なさの裏返しでもあっただろう。

 八木は本番前日である3日の記者会見で「マイクを使わない歌手の声量、身体を楽器のようにして歌う歌手のすごさを感じた。自分の中でも響く感覚があります」と語っていた。自身が歌う場面はなくとも、物語の全体、歌手陣の歌を全身で受け止めていたことがよく分かる。今回のオペラは、八木にとって大きな舞台経験だったことは間違いないだろう。

 ステージ上の八木の存在感とその妖艶な美のインパクトは強烈だった。同時にこの平家物語は制作陣や出演者も総じて素晴らしかった。