苦悩の季節は過ぎ去った。いまや海外の聴衆を熱狂させる若きバンドが、過去最高にダンサブルで先鋭的なサード・アルバムを完成! 誰も見たことがないフォームで5人は音楽の海を泳いでいく……

 フロントマンでソングライティングを担うJohnathan Calrissianを中心に日米韓のメンバーから成る多国籍バンド、Johnnivan。LCDサウンドシステムやホット・チップを彷彿とさせるダンサブルなロックを鳴らし、日本で人気を博してきた彼らだが、今年に入って念願の韓国でのライヴを実現させた。

 「6月に〈韓国版フジロック〉みたいな〈DMZ PEACE TRAIN FESTIVAL〉に出演したんですけど、その評判が良かったみたいで、9月と10月にも行けました。オーディエンスの熱量や知らない曲でも楽しめる感度の高さに驚かされます」(Shogo Takatsu、キーボード)。

 「僕は高校生まで韓国に住んでいたので、自分にとっては凱旋みたいなもの。嬉しかったです」(Junsoo Lee、ギター)。

 そんな海外での手応えを感じている5人が、サード・アルバム『Swimmer』を完成。独創的で先鋭的な楽曲を揃えており、バンドの創造性の高まりを感じさせるが、実は2022年の前作『Give In!』前後は辛い時期を過ごしていたという。

 「『Give In!』は本当に大変で、もう終わりかもと思った瞬間もありました。それもあって、今回のアルバムは当初、Johnathanがソロとして進めていたんです」(Takatsu)。

 「前作の頃はバンドの内外にノイズが多くてストレスフルな環境でした。その経験を忘れるために新作の曲を書きはじめたんですけど、バンドに渡すのが少しイヤで。でも辛かったのは自分だけではないし、Johnnivanは僕のものではなく5人のバンド。やっぱりみんなと作りたいと思ったし、そうしたほうが曲が良くなることも明白だった。そもそも音楽をやることで孤独を少しでも和らげたいと思っていますし」(Johnathan Calrissian、ヴォーカル)。

Johnnivan 『Swimmer』 Pヴァイン(2024)

 新作に収録された楽曲は、精神的にも物理的にも〈水に近い〉環境で生まれたそうだ。

 「食器を洗っていたりシャワーを浴びていたりしたときにメロディーが湧いてくることが多かったんです。また、今回は自分に起きた死別の経験を反映した曲が多い。僕の地元は海に近いんですけど、海や川の流れは逆らえないものじゃないですか。死や別れもそう。そういう感覚が作品の底流になっています」(Johnathan)。

 新作『Swimmer』は、レイヴやベース・ミュージックなどダンス・ミュージックからの影響を色濃く感じさせる。それらの成分をポスト・パンクやギター・ポップという下地にコラージュしていったかのようなフリーキーで情報量の多いサウンドが圧巻だ。レフトフィールド・テクノ調の“Frohsinn ’82”、ニューウェイヴと昨今のラテン・ポップが絡み合う“Kayoesque”、「レディオヘッドのJohnnivan的解釈」(Junsoo)にして低音が凄まじい“Gown”という序盤の3曲だけで、本作のエッジーさは伝わるだろう。

 「ジャンルは何か?と訊かれても答えられない楽曲ばかりだと思います」(Kento Yoshida、ベース)。

「その点では、7曲目の“Cling Wrap”がいちばんカオスかも」(Takatsu)。

 確かにリズムは有機的でありながら、ウワモノや音自体の質感は無機質で不穏さの漂う“Cling Wrap”は、破綻寸前でポップソングとしての体を保っている楽曲だ。そのほかにも、キラキラとしたディスコ・ポップ“Final Girl”、スパークスやラスト・ディナー・パーティーを思わせるチェンバー・バラード“Amanda K.”、得意のパンク・ファンクなアンサンブルをさらに磨き上げた“Infinity Pool”など『Swimmer』には多彩な楽曲が並ぶ。

 「“Infinity Pool”はアルバムの最後に作った曲なんですけど、これで終われてよかったなと。今回は生ドラムが入っていない曲もあって、僕自身も〈絶対に生で演奏したい〉というより曲を活かすアプローチをしたいと思っているんですが、“Infinity Pool”はドラマーとして生身ひとつで向き合えた楽曲だと思う」(Yusaku Nakano、ドラムス)。

 「“Infinity Pool”を聴くと、KentoさんとYusakuさんの演奏している姿が見えます。みんながいたから生まれた楽曲ですね」(Johnathan)。

 「前作の苦悩を乗り越えたことで、お互いの良さへの理解が深まり、いまは本心で話し合うことで逆に時間をかけずに曲が良い方向に進むんです。もちろん揉めることもありますけど(笑)。やっぱり余裕がないといいアイデアは出てこないし、成長を続けつつ、かつ楽しいままでいたい。サステナブルなバンドに少し近づいたんじゃないかな」(Takatsu)。

Johnnivanの作品を紹介。
左から、2024年のカセット・シングル『White Bicycle, Lightweight』(Pヴァイン)、2022年作『Give In!』、2020年作『Students』(共にCeramic Foot)