俳優としてミュージカルや舞台を中心に活躍するのみならず、歌唱力の高さを買われて2020年にメジャー・デビューし、さぐぱん名義で音楽活動を行ってきた牧島輝(まきしまひかる)。2024年には念願のアートワーク個展を開催、さらにアパレル・ブランドを立ち上げるなど、近年はますます多方面でクリエイティヴィティーを発揮している。

 「僕はシャイな性格なので、昔は自分自身を表現するのが苦手だったのですが、俳優として活動していくなかで、役ではなく僕自身を好きになってくれる人も増えていったことで少しずつ自信が付いて、やりたいことがどんどん増えていったんです。だからこそ後悔しないように自分がいまやりたいことは全部やっておきたい。2023年には舞台をプロデュースしましたし、以前の音楽活動が一区切り付いた後も〈こういうことがやりたかったな〉という想いがあったので、もう一度トライしようと思いました」。

牧島輝 『RePAINT』 コロムビア(2025)

 そんなアーティスト活動再開への熱意も込められたのが、本人名義では初となる今回のアルバム『RePAINT』。学生時代はボカロ音楽や姉の影響でヴィジュアル系にハマり、マキシマム ザ ホルモンや9mm Parabellum Bulletなども愛聴していたほか、最近はヒップホップが好きで特にBRON-Kが好みと語る彼の幅広い音楽趣味を反映するように、本作にはバンド・サウンドを軸にさまざまな曲調で彩られた全8曲を収録。念願のアニメ・タイアップ曲となる情熱的なロック・チューン“Phoenix”“Cuz I”から、かわむら(ポップしなないで)提供の感傷と共に夜を疾駆するナンバー“ATARAYA”まで、主役のパワフルで存在感ある歌声がガツンと響いてくる。

 「僕は太くて力強い声の人がかっこいい曲を歌っているとすごく力をもらえるんです。自分も声が強いほうだと思うので、芯からの力強さみたいなところを歌えるようにがんばって、誰かの力になれればと思っています」。

 リード曲の“RUN”はまさにそんな一曲で、「学生のときは引きこもりがちで〈どうしたら前を向けるんだろう?〉と悩んでいた時期もあった。それでも歩き出さなくてはいけないし、自分も俳優のなり方なんて想像もつかなかったけど、とりあえずわからなくても思い切ってやってみることがすごく大事で、始めるとわかることもたくさんある」という自身の経験則をみずから歌詞にして歌うことで、聴き手の背中を押す。そして作詞だけでなく初めて作曲にも挑戦したのが表題曲の“RePAINT”。伸びやかなヴォーカルと〈空を高く飛びたかった〉〈絵の中には全てがあった〉というフレーズに、彼の創作に対する想いが伝わってくる。

 「アニメ・タイアップの2曲が両方とも力強くて前向きな感じだったので、サラッと聴ける曲を作りたいなと思ってできた曲です。アレンジのリファレンスは須田景凪さんの“青嵐”。自分的には歌詞の情景をそのまま絵本として表現できるような、具体性のあるものにしたくて。特に自分のことを意識して書いたストーリーではないのですが、自分から生まれたものなので自然とそういう部分も出たんだと思います」。

 見栄を張ることなくありのままの気持ちを曝け出した歌詞、くすぶる感情に寄り添ってくれる逞しい歌声。このアルバムを聴けば、役者として舞台に立っているときの牧島輝とはまた違う、等身大の牧島輝に出会えるはずだ。

 「自分は真っ直ぐ言葉を伝えるのが苦手だから、今後も歌詞を書くとしても〈愛してる〉みたいなことは書けないと思うんですよ。それでも自分なりに真っ直ぐな言葉を選んでいるつもりだから、聴いてくれる人のがんばる力に少しでもなれたら嬉しいです」。

 


牧島輝
95年8月3日生まれ、埼玉出身の俳優/ミュージシャン。2015年に俳優デビューし、〈刀剣乱舞 〉 シリーズや「キングダム」など舞台を中心にしつつドラマや映画にも出演している。2021年にファースト・シングル“かくれんぼっち”を発表。2022年に〈さぐぱん〉名義でリリースしたミニ・アルバム『さぐわん』はオリコン週間チャート1位を獲得。2024年10月の配信シングル“Phoenix”で音楽活動を再開し、このたびファースト・アルバム『RePAINT』(コロムビア)をリリースしたばかり。