
玉置浩二がニューシングル“ファンファーレ”を2025年11月5日にリリースした。同楽曲は現在オンエア中のTBS系日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」の主題歌として書き下ろされたナンバーで、ドラマのストーリーと共鳴しながら玉置自身の生き方も反映された曲だ。シングルには“JUNK LAND”と“MR. LONELY”の貴重なライブ音源も収録されており、この2曲もまた、いまの時代を懸命に生きる人たちの支えとなるようなエネルギーを纏っている。
玉置が“ファンファーレ”にどんな思いを込めたのか。ライブ音源の選曲理由と共に、ライターの服部のり子に考察してもらった。 *Mikiki編集部
“ファンファーレ”がドラマの登場人物たちと視聴者の背中を押す
どんなストーリーなのか予備知識もなく、ただ競馬の世界が描かれているということしか知らずに、ドラマ「ザ・ロイヤルファミリー」の第1話を見始めた。冒頭のシーンでサラリーマンの悲哀をどっぷり浴びたので、日曜劇場ならではの日本社会と、その人生模様を追うドラマなのかと思った。
ところが、ストーリーは思わぬ方向に進み始める。複雑ではないけれど、登場人物から放たれるまっすぐで強い感情をどう受け止めたらいいのか。エンディングに向けて、消化不良になりかかったところで、玉置浩二による本作の主題歌“ファンファーレ”が流れてきた。囁くような声で玉置が歌い始めた瞬間、心が救われる思いがした。
ドラマの舞台は、主に東京と北海道の日高地方。都会の競馬場とサラブレッドを育てる地方の牧場という、密接な関係にありながら対照的でもある2つの場所で、ドラマは紡がれていく。玉置は、この両方の場所を知っている〈はず〉だ。〈はず〉と付け足したのは、彼が競馬場に足を運んだことがあるか不確かだからだが、牧場のことはきっとよく知っていることだけはわかる。“ファンファーレ”が主題歌に決定した報せとあわせて、彼自身コメントでこう語っている。
1年の半分以上が雪である、北海道で育った
自分自身の幼少期を重ねて作りました。
馬が小さい頃から育てられ、大きくなる姿は、自分の人生と重なります。
勝ち負けではなく、そのままの自分で真っ直ぐに前に向かって行くことが、大切なんだと思います。
物語が進むなかで、競走馬を育成するシーンがたびたび登場するが、彼はこういう光景を思い浮かべていたのだろうか。コメントの〈そのままの自分で真っ直ぐに前に〉という思いは、“ファンファーレ”の歌詞にも反映されている。とりわけAメロの〈そのまま 生きていきなさい/行きなさい〉というフレーズに、「ザ・ロイヤルファミリー」の登場人物たちと視聴者の背中を押す気持ちが表れているような気がする。それと同時に、どこか玉置自身が自らに言い聞かせているような、肯定する気持ちも詰まっていると思う。
妻夫木聡が演じるドラマの主人公、栗須栄治は、ある意味で父親の敷いたレールの上を歩み続けるなかで、冒頭で触れた理不尽な悲哀や葛藤を重ねて、自らが進むべき道を見失い、迷子になってしまう。
大人になってから挫折を経験する人が少なくないこの時代に、人々は無意識のうちに自己肯定がしにくくなっている。ついつい〈私なんか〉という言葉を口にしてしまう人が結構いるけれど、そんな人たちにとってこの〈行きなさい〉は、心に強く響き、自分を信じるお守りのような歌詞になっていくに違いない。
玉置にとって3年ぶりの新曲である“ファンファーレ”は、牧歌的なイントロから始まり、疾走感溢れるメロディーに転じて、間奏やアウトロでは彼が感じるままに発する雄叫びのような声が流れる。玉置のスタイルなのかもしれないが、ここに明確な言葉では表現しきれない感情の爆発が感じられて、人生にもがく人たちの心を代弁しているように聞こえる。
