©Henry Schluz/ECM Records

スローでダーク、リリカルで詩情あふれるECMからの2作目

 溜息が出るほどリリカルで詩情あふれるアルバムだ。ベルリン在住のピアニスト、ベンジャミン・ラックナーのECMからの2作目『Spindrift』は、いかにもこのレーベルらしい静謐で凛とした響きに満ちている。ベンジャミンは「キース・ジャレットが昔からのアイドルで、15歳の頃からECMの音源を愛聴していた」という。相思相愛だからこその傑作なのだろう。参加メンバーも豪華。リンダ・メイ・ハン・オー(ベース)、チュー・シャザレンク(ドラムス)のリズム隊も堅調だが、デビュー作からの付き合いであるマティアス・アイク(トランペット)、初の共演となるマーク・ターナー(テナー・サックス)というフロント二管の絡みが深く琴線に触れる。

 「ふたりとも出せる音のレンジが広くて、マークに関してはアルトの音域までカヴァーできる。だから、その利点を活かそうと思った。ちなみに僕はアメリカに20年くらいいたけど、ドイツに戻ってから逆にアメリカの音楽家と共演するようになった。ECMは伝統的にヨーロッパとアメリカをコネクトするようなことをやってきたレーベルでもあるよね」

BENJAMIN LACKNER 『Spindrift』 ECM(2025)

 毎日、オフィスに通勤する感覚で自らのスタジオに通い、作曲/録音を行っているという彼。前作に続き約100曲の中から、収録曲10曲を厳選したという。

 「曲を書いて、2週間後に良し悪しを判断することにしている。そうやってあとで聴き返すと、今回はスローでダークでマイナー調の曲が多いことに気付いた。これはアメリカの政治的な状況が悪化していた時期に書いたからだと思う。不穏な世界情勢も何らかの形で影響しているんだろうね」

©Sam Harfouche/ECM Records

 最後に、昨今はレディオヘッドやエイフェックス・ツインをとりあげるジャズ・ミュージシャンも多いが、あなたはどう?と問うとこんな答えが返ってきた。

 「レディオヘッドは好きだよ。でも彼らのハーモニーは遡ると、ブラームス、ショパン、スクリャービンなどに辿り着くと思う。僕はクラシックや現代音楽が好きで、ECMの〈ニュー・シリーズ〉も当然よく聴いているよ。他にジャズ以外ではマッシヴ・アタックが好きだね。あと、ブロンド・レッドヘッドの曲をピアノ・トリオでとりあげたことがある。最近はポール・マッカートニーのベースを参考にしている。彼のベースラインはメロディとしても機能しているから、興味は尽きないよ」

 まだ構想段階らしいが、次のアルバムはストリングスを大々的にあしらった非ジャズ的な作品を予定しているという。こちらも今から楽しみでならない。