昨年スタートした20周年記念ツアー〈二十年一刻〉にてアジアからオーストラリア、欧州を巡り、今年2月には台北アリーナ公演を行ったソーダグリーン(蘇打綠/sodagreen)。同ツアーのファイナル公演を5月末に日本武道館で行うほど日本でも支持されているバンドながら、いわゆるマンダリン・ポップの世界にこうしたタイプのスターがいるということを知らなかったという人も多いだろう。彼らは欧米のインディー・バンドに通じるスタンスを独自の音楽性に昇華して活動してきた台湾の6人組。20年のキャリアを通じてチャートを賑わせながら権威ある音楽賞をたびたび受賞し、商業的にも批評的にも絶大な成功を収めてきた。マンダリン・ポップの歴史においてここまでの功績を残したバンドは唯一無二で、〈中華圏でもっとも成功したインディー・バンド〉とされている。
バンドの結成は2001年。もともとは台北の国立政治大学(NCCU)に通うリード・ヴォーカルの青峰(チンフォン)や馨儀(クレア)、小威(シャオウェイ)らが集まった大学生バンドで、ソーダ水の爽快なイメージに青峰が好きな色のグリーンを加えてソーダグリーンの名前が誕生したという。その年の5月に同大学が主催するゴールデン・メロディー・カップに出場して最優秀人気賞に輝き、そこからインディペンデントなアーティストの楽曲を集めたコンピにも参加。メンバー交代を経ながら2023年3月には同学の阿福(アフー)と家凱(ジャーカイ)、台北芸術大学の阿龔(アコン)が加わり、そこから不動のラインナップとなる。大学の卒業を機に2003年に解散する予定だったが、同年7月のフェス〈海洋音楽祭〉出演で脚光を浴びたのをきっかけに2004年にプロとしてデビューを飾っている。
高校生の頃から独学で音楽を習得し、学生時代に膨大な曲を書いてきたメイン・ソングライターの青峰は、フェイ・ウォンや椎名林檎、レディオヘッドなど、主に94〜00年の音楽に親しんできたという。彼に次ぐソングライターの小威はU2やコールドプレイの影響を受け、メタルやジャズを好むマルチな演奏家の馨儀もレディオヘッド、アラニス・モリセットの名を挙げ……と書けば、彼らの世代感やサウンド志向も伝わるかもしれない。
2005年に発表したファースト・アルバム『蘇打綠(sodagreen)』から成功を収めた6人は、作品を重ねるごとに押しも押されぬ存在に成長していき、3作目『Incomparable Beauty』(2007年)のリリース直後にはインディー・バンドとして初めて台北アリーナでの単独コンサートを開催するにまで至った(以降は大陸を含むアジア各国にも進出して2008年には初来日を果たしている)。結成10周年を迎えた2014年には記念ツアーを10都市で行って20万人以上を動員するなど、アジアを代表するインディー・バンドの地位に昇り詰めた。
2017年から3年間の活動休止を経て2020年にバンドとして活動を再開。そこからはテイラー・スウィフトの〈Taylor’s Version〉のように自分たちの過去アルバムをすべて再録してリリースしてもいる。このたび初めての日本盤として届いた来日記念盤『蘇打綠』は、その一環として2022年に世に出たもの。2005年のデビュー作を現在の技量と目線からリアレンジのうえ再レコーディングしたセルフ・リメイク作品だ。CD2枚組の構成は、Disc 1にはアルバム本編の再録音を収め、Disc 2にはそれ以前のシングル群を再録した音源と、シャーロット・マーティンやアラニス・モリセットらのカヴァーを含む2016年のライヴ音源が収録されている。
唯一無二のエモーショナルな情感を帯びた青峰の誠実な歌唱とメロディアスな楽曲の格調高さが、爽快なギター・ポップやオルタナ調のロック・チューン、アコースティックなスロウ、賑やかなアップから歌謡性の高いバラードまでを圧倒的に響かせている。長いキャリアと経験に裏付けられた演奏力の高さ、ストリングスなども印象的に用いた変幻自在なアレンジの熟練ぶりも相まって、現在進行形で前進するバンドのスケールをまざまざと証明する優美な作品だ。リーチが容易になったことでアジア産の多彩な音楽が改めて注目されるなか、この機会に彼らの美しい魅力に触れてみてほしい。
ソーダグリーン
青峰(ヴォーカル)、馨儀(ベース)、小威(ドラムス)、阿福(ギター)、家凱(ギター)、阿龔(ピアノ/ヴィオラ)から成る台湾のバンド。國立政治大學の学友同士で2001年に結成され、2003年より現編成で活動している。2005年の初作『蘇打綠』でブレイクし、2017年の活動休止、2020年の魚丁糸への改名を経て、2023年に再改名。20周年ツアー〈二十年一刻〉での来日を記念して、 2022年作『蘇打綠』(Oaeen/ユニバーサル)の日本盤がこのたびリリースされたばかり。