©Eric Welles-Nystrom

何があろうと魂を失うことはできない! ルアカ・バップの審美眼によって〈発掘〉されたゴスペル・グループは、これまで以上にスピリチュアルな新作で天まで高揚する!

 2022年にルアカ・バップからリイシューされたステイプルズ・ジュニア・シンガーズの75年作『When Do We Get Paid』を憶えているだろうか。米南部ミシシッピ州アバディーンに暮らす10代の兄妹がステイプル・シンガーズへのオマージュとして結成したグループのゴスペル・アルバム。そのメンバーだったアニー・ブラウンがギタリストの夫ウィリー・ジョー・コールドウェルとの結婚を機に引っ越したミシシッピ州ウェストポイントでスタートさせたのが、今回ルアカ・バップから新作『Can’t Lose My (Soul)』を発表したアニー&ザ・コールドウェルズである。

ANNIE & THE CALDWELLS 『Can’t Lose My (Soul)』 Luaka Bop/BEAT(2025)

 アニーは現在67歳。グループの活動歴は長くメンバーは流動的だが、アニーと夫のウィリーを中心に、ヴォーカルで参加する娘のデボラとアンジェシカ、長男のウィリーJr.(ベース)、末っ子のアベル(ドラムス)というコールドウェル一家が軸になることに変わりはない。そこに教師でシンガーのトニ・リヴァースのほか、コンガやハモンドB3奏者が参加。それぞれ昼の仕事を持つメンバーたちが、夜に集まって音楽を行う。アニーは地元で衣料品店を経営、娘のデボラは美容師で、グループの色彩豊かなスタイリングやヘアメイクにも彼女たちの経験やセンスが反映されている。

 家族を繋ぐのは神への信仰。これが音楽のベースになっている。過去にエコーから出した『Answer Me』(2013年)や『We Made It』(2018年)はクラーク・シスターズとステイプル・シンガーズの中間的なゴスペル作だった。そんな彼女たちを、デヴィッド・バーン主宰の名門ルアカ・バップの現代表、イェール・エヴェレフがミシシッピの田舎町から世界の舞台に引き上げた。アニーが「神の御座す空間で歌うことで、それまでの作品よりスピリチュアルなものになった」と話す新作『Can’t Lose My (Soul)』は、2023年10月、地元ウェストポイントの自宅前にある教会〈The Message Center〉で家族全員の生演奏による一発録り。その歌には、兄や姉を失ったアニーが悲しみを乗り越えてきた体験も反映されている。そうした感情を生々しく引き出したのが、プロデュースを手掛けたシンケインことアーメッド・ガラブだ。スーダンにルーツを持ち、アフリカ音楽やクラウトロックなどを現代的に融合したリーダー作で知られるシンケインによる采配で、ナッシュビルから機材を運び、教会の裏部屋をスタジオに改装して録音した。

 冒頭のファンク・ソウルな“Wrong”では娘デボラが故シャロン・ジョーンズやメイヴィス・ステイプルズを思わせる力強くディープなヴォーカルを叩きつける。浮気をした夫に復讐をしたが復讐は何も生み出さないと悟ったデボラの実体験をもとにした曲で、母アニーや妹アンジェシカを含むコーラスが〈Wrong!(間違ってた!)〉と合いの手を挿む。シンケインらしいアフロ・ディスコ的グルーヴの“I Made It”も含めて、収録曲はそうしたコール&レスポンスが基盤になっている。

 10分を超えるミディアム・テンポの“Can’t Lose My Soul”など、50年以上歌い続けてきたアニーのアルト・ヴォイスはさすがの存在感だ。“Don’t You Hear Me Calling”での歌はプリーチャーのような説得力で、ブルージーなスロウ・バラード“I’m Going To Rise”でも死の淵から立ち上がる心境を気迫のある歌で表現。〈神は暗闇を光に変えてくださる〉という信条は一貫しているが、ミディアム・ファンク調の“Dear Lord”ではその想いをストレートに歌っている。40年前に自宅が火事になった時、自身の直感(=神の導き)が家族を救ったことに感謝する曲だ。

 アルバム・ジャケットは、詩人で写真家のレイヴン・ジャクソンが監督したA24製作の映画「オール・ダート・ロード・テイスト・オブ・ソルト」にちなんだ写真集から拝借。南部の田舎町の日常を切り取った写真も、グループのスピリチュアルな歌世界を伝えている。

左から、ステイプルズJr.シンガーズの2022年作『Tell Heaven』、2024年作『Searching』(共にLuaka Bop)、アニー&ザ・コールドウェルズの2013年作『Answer Me』(Ecko)、シンケインの2024年作『We Belong』(City Slang)