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とろけるような時間を生み出す演奏

ドミンギーニョスとジルが書いた“Lamento Sertanejo”は、一転してピアノの弾き語りで静謐かつパーソナルなムードを醸し出す。だが歌声が絶妙に親密なので、観客一人ひとりに歌いかけているかのよう。次のジル作“Prece”“Cada Tempo Em Seu Lugar”ではピアノを鍵盤奏者に任せ、ヒカルドはハンドマイクで歌う。自身とヒカルド・ベゼハが作曲した“Não Vale A Pena”でバンドが戻ってきて、ミルトン・ナシメントとロナルド・バストスの曲“Nada Será Como Antes”を続け、レゲエ調のリズムを少々取り込んでいく(なおこれらの5曲は12曲入りのアルバムにはなく、18曲収録のロング版動画でのみ聴ける)。

ミルトンとフェルナンド・ブラントが書いた“Canções E Momentos”はほぼドラムビートがなく、少ない音数だが音場は広大。そのまま“Cais”(これもミルトン&バストスの曲)に行き、ベースと歌でメロディをユニゾンする終盤が印象的だ。

個人的なハイライトはエヂナルド作“A Manga Rosa”のパフォーマンスなのだが、こちらも18曲版のみで聴ける曲。ビートルズっぽいフレーズから始まり、ドラマティックに展開していく演奏もさることながら、何とも言えない陽気さとメランコリーが混ざった中間的なメロディがたまらない。ギターとシンセソロのちょっとアラビックなフレーズや絡み合うインタープレイもいい。ミニ・オール・スターズなんかを彷彿とさせるアフロカリビアンなリズムも相俟って、とてもハイブリッドで不思議な音楽だ。

雄大なミドルテンポのバラード“Mentiras”はアドリアーナ・カルカニョットの曲。ワウギターとフレットレスベースの伸びやかなサウンド、ピアノの切ないフレージングがとろけるような時間を生み出す。ヒカルドがカメラに歌いかける場面もあるが、間奏にて笑顔でリズムに揺られる横顔がいい。

次はまたピアノの弾き語りで、コメントにあった自身とベルキオールの曲“Vício Elegante”“Paralelas”をじっくりと聴かせる。特に後者のメロディと和声の美しさといったらない。

 

ファンと交流し、明るく朗らかに閉幕

雷雨の音が鳴り響いて暗転、ヒカルドが電球を灯すパフォーマンスを見せたあと、再びフルバンドで“Estrela Da Terra”(ドリ・カイミ&パウロ・セザール・ピニェイロ作)を奏でる。あまりにも演奏が優雅なので気づきづらいが、よく聴くとアフロブラジリアン的な複雑な拍子だ。

前述の“Totalmente Demais”(アルナルド・ブランドン、ホベリオ・ハファエル、タヴィーニョ・パエス作)は、ボサノバのリズムでAORやフュージョンを混ぜたような演奏を情感たっぷりに聴かせる。

“Maracatu Atômico”(ジョルジ・マウチネル&ネルソン・ジャコビーナ)はジルベルト・ジルの曲として知られるが、ジルらしいアフリカンリズムとカエターノのサウンドを思わせるヘビーな歪んだギターの組み合わせが本作の中で異彩を放つ。ヒカルドは後半、見事なコンガソロを披露してリズムの饗宴を繰り広げる。 

最後はまたジルの曲で“Andar Com Fé”。途中、ヒカルドは客席の方に降りてきてフロアをぐるっと回ったり、観客の拍手を響かせるパートを設けたり、ファンとの交流を楽しんでいる。明るく朗らかな旋律とアフロリズムの組み合わせで、陽気かつソウルフルに公演を締め括った。全体的にジルへのトリビュートを感じるライブだった。