(左から)ジャキス・モレレンバウム、ヒカルド・バセラール

ヒカルド・バセラールの尽きない創作意欲

なんという創作意欲だろう。自身のジャスミン・スタジオという制作拠点を持っていて自由に録音できるためだろうが、それでも、である。2024年11月29日にリリースされた『Aracati』は、ブラジル音楽の匠ヒカルド・バセラールが今年発表した2作目のアルバム。前回紹介した『Donato』からのスパンはわずか3か月だ。

そもそも『Paracosmo』をリリースした2021年からの3年間で、彼は6作ものスタジオアルバムを発表している。いくらスタジオを持っているからといって、作曲や編曲、演奏、あるいは共演者のアイデアが次々と常に湧き出てくるミュージシャンでなければ、これほど立て続けに作品を作ることはできないだろう。まずはその事実に驚かされる。

 

2年で距離を縮めたヒカルドとジャキス・モレレンバウム

そんなヒカルド・バセラールの新作『Aracati』は、ジャキス・モレレンバウムとの共演/共作アルバムになっている。チェリストで作曲家/アレンジャー/プロデューサーのジャキスは先日、妻パウラと盟友の伊藤ゴローとともに坂本龍一トリビュート公演を日本で開催したばかり。彼は坂本と1990年代から共演しており、2001年に〈Morelenbaum2/Sakamoto〉名義でアントニオ・カルロス・ジョビンの曲を演奏したアルバム『CASA』も制作している。そのジョビンやカエターノ・ヴェローゾ、マリーザ・モンチといったブラジルのトップミュージシャンからイギリスのスティングまで輝かしい共演歴を持ち、文字どおりグローバルに活躍する名手だ。

ヒカルドとジャキスの出会いは意外にも最近のことで、2022年にヒカルド&デリア・フィッシャーのアルバム『Andar Com Gil』のレコーディングで知り合ったという。ジャキスは収録曲“Prece”へジルベルト・ジルとともに参加し、その後2023年にヒカルドの流麗なインスト曲“O Meio Do Mundo”でもチェロを弾いている。そして前述の『Donato』にもゲストとして招かれており、この2年で一気に距離を縮めたようだ。

 

アラカチの美しい自然と触れ合って生まれたアルバム

彼らが作り上げたアルバムのタイトルに掲げられているのは、セアラ州沿岸部にある町アラカチ。同地がそのまま本作の制作の舞台とインスピレーションの源になっている。

構想から収録まではわずか15日間だったそうだ。ジャキスをセアラ州に招いたホストのヒカルドは、「滞在した家の一室にミニスタジオを設け、私は電子ピアノを、ジャキスはチェロを持ち込んで、あの環境の中に没入した。砂丘や海、アラカチの美しい自然と触れ合いながら1週間過ごした。その間我々はよく語り合い、演奏し、すべてがアルバム制作のインスピレーションとなった」と振り返っている。

アラカチはかつてセアラ州都で、州の経済の中心地でもあった。現在の州都はフォルタレーザだが、アラカチの海辺に堂々とそびえ立つ赤い断崖の美しさは今も保たれており、海藻や魚、砂といったものを含めて、町の環境のすべてが2人の音楽を構成する重要な要素となったとのこと。そして翌週、2人はフォルタレーザのジャスミン・スタジオに移り、再びレコーディングに入ってこのアルバムを仕上げた。