©Michaela Weber

新星グロメスが描く想い溢れる協奏曲

 新鮮な“ドヴォ・コン”を聴かせてくれたのは読売日本交響楽団の定期演奏会への客演で初来日を果たしたラファエラ・グロメス。ドイツ出身の注目すべきチェリストである。コンサートの感想を率直に伝えると、溢れるように想いを語ってくれた。

 「ありがとうございます。これまでのドヴォルザークの“チェロ協奏曲”の演奏は、あまりにも名手たちの朗々と歌うスタイルに影響され過ぎていて、ちょっと違和感がありました。私はもう一度、作曲家の楽譜を見直し、そこに内包されている様々な音楽的要素をどう表現するかに取り組みました」

 そこにはひとつ、個人的な想いも含まれているようだった。

「実は両親ともチェリストで、しかも父はドヴォルザークの生まれた地方の出身だったのです。そんなこともあり、子供の頃からこの協奏曲には親しんで来ました。父は残念ながら亡くなってしまったのですが、彼の墓碑銘にはこの協奏曲の第2楽章の一節を思い出のために刻むことにしました」

RAPHAELA GROMES, VOLODYMYR SIRENKO, NATIONAL SYMPHONY ORCHESTRA OF UKRAINE 『ドヴォルザーク:チェロ協奏曲』 Sony Classical(2024)

 もちろん彼女の録音もリリースされている。それがウクライナ国立交響楽団と2024年2月に行った録音であり、その前年には実際にキーウまで出かけて、同じオーケストラとコンサートも行っていたのである。

 「そのコンサートには前線から帰って来たばかりの兵士たち、空襲に巻き込まれている人たちも多く来てくれました。また前線に戻らなければならない人にとって、音楽を聴く時間はまさに自分が生きていることを実感する時間ともなっていたのです。そういう場所で演奏できたことを私はけして忘れません」

 読売日本交響楽団のコンサートの最後に、チェロのメンバーと一緒に演奏したのは、静かな、しかし深い想いに満ちたハンナ・ハヴリレツの“トロバリオン~聖母マリアへの祈り”だった。

 「そもそもは合唱曲ですが、それを友人のユリアン・リームに編曲してもらい、チェロと弦楽オーケストラで演奏したヴァージョンがアルバムに収録されています」

 未知の作曲家ハヴリレツだが、フランクフルトにある貴重な〈女性と作曲家〉アーカイヴで発見した合唱曲だったそうだ。

 「2022年に亡くなった彼女が最後に完成させた作品でした。これをなんとしても一緒に録音しておきたかったのです」

 彼女は女性作曲家だけの作品集『ファム』もリリースしており、今秋には第2弾のリリースも予定されている。本当に興味深い、そのリリースを待ちたい。