米津玄師やVaundyなど、現在シーンの先頭を走る多くのアーティストに影響を与えた2000年代の日本のロックシーンを振り返る短期連載〈Back to 2000s J-ROCK〉。最終回となる今回は、2025年にリリースされたART-SCHOOL、ACIDMAN、RADWIMPSのトリビュートアルバムを軸に、今の音楽シーンに2000年代の邦楽ロックがどのような影響をもたらしたのかを総括します。 *Mikiki編集部

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下北系、残響系の盟友たちが参加したART-SCHOOLのトリビュート盤

今年5月に公開した〈下北系・残響系〉を特集したコラムはありがたいことに大きな反響をいただいた。アニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」をきっかけとする下北系ギターロックの再評価、the cabsの復活による残響レコードへの再注目、そして、彼らから影響を受けた若い世代の台頭についてまとめたものだったが、この流れは2025年後半にさらなる盛り上がりを見せた。その盛り上がりに大きく貢献したのが3作の貴重なトリビュート盤であり、それらは邦ロックの継承を強く印象付けたのであった。

今年結成25周年を迎えたART-SCHOOLのトリビュート『ART-SCHOOL 25th Anniversary Tribute Album “Dreams Never End”』には、ASIAN KUNG-FU GENERATION、ストレイテナー、syrup16gといった2000年代の下北シーンを彩った盟友たちが参加。1曲目を飾ったASIAN KUNG-FU GENERATIONによる“FADE TO BLACK”は、2019年にストレイテナー、ELLEGARDENとともに行った〈NANA-IRO ELECTRIC TOUR〉で、演奏に元ART-SCHOOL、現ストレイテナーの日向秀和と大山純、現ART-SCHOOL、MONOEYESの戸高賢史を迎えて演奏していた楽曲だ。今回のトリビュートにはMONOEYESも“BOY MEETS GIRL”で参加している。

VARIOUS ARTISTS 『ART-SCHOOL 25th Anniversary Tribute Album “Dreams Never End”』 DAIZAWA/UK.PROJECT(2025)

このトリビュートの中に、残響レコード出身のcinema staffとPeople In The Boxもいるということが、まさに2000年代における下北系から残響系へのバトンを示していると言っていいだろう。さらに、cinema staffとは同世代で、やはりエモやポストロックから強い影響を受けているindigo la Endがいたり、2024年12月にkurayamisakaをいち早く対バン企画に招き、2026年の年明けには羊文学との対バンを控えるなど、現在のオルタナシーンで重要な役割を果たしているリーガルリリーが参加していることも特筆すべき点だ。

なお、来年3月に行われるthe cabsの対バンツアーにはcinema staff、ストレイテナー、indigo la Endの出演が決まっている。ART-SCHOOLのトリビュートに参加したバンドがこうして並んだのは、決して偶然ではないことがよくわかる。

そもそも現在のART-SCHOOLは木下理樹と戸高に加え、NUMBER GIRLの中尾憲太郎、トリビュートにも参加しているMO’SOME TONEBENDERの藤田勇という上の世代と、NITRODAYやCruyffのメンバーであり、今年ソロ作も発表したyagihiromiという下の世代が融合したバンドになっているわけで、今後ますます世代を繋ぐような存在になっていくことが期待される。

 

ACIDMANのトリビュートに見るパンク、ラウド系との接点

下北系を代表するバンドの1組であるACIDMANは、10月に13作目となるオリジナルアルバム『光学』と、初のトリビュートアルバム『ACIDMAN Tribute Works』を同時リリースした。こちらのトリビュートにもストレイテナーが参加している一方、ELLEGARDEN、the band apart、10-FEET、BRAHMAN、Dragon Ashといったバンドが名を連ねていて、ACIDMANがよりパンク、ラウド、ミクスチャー系のバンドと接点が強いことが伝わってくる。

VARIOUS ARTISTS 『ACIDMAN Tribute Works』 ユニバーサル(2025)

下北系と残響系のコラムの反響を受けて、2000年代のシーン全般を振り返ったこの〈Back to 2000s J-ROCK〉では、第1回でこのあたりのバンドに触れたが、記事の公開直後にHi-STANDARDが新体制で再始動することが発表され、〈AIR JAM〉復活の可能性も示唆されるなど、今後再びパンクやメロコアのシーンが盛り上がりを見せそうだ。