藤井 風が新曲“Hachikō”をリリースした。2025年9月5日(水)に発売予定の3rdアルバムからの先行曲だが、これまでの藤井の楽曲とは違うベクトルが掲示されたダンスチューンとして大きな話題となっている。

7月からはヨーロッパ&北米ツアーに臨む藤井にとって、“Hachikō”はこれまで以上に自分と世界のリスナーをつなぐ重要な楽曲になるはず。新たなコラボ相手との親和性も含めて、ライターの伊藤美咲に本楽曲をレビューしてもらった。 *Mikiki編集部

藤井 風 『Hachikō』 Republic/HEHN/ユニバーサルシグマ(2025)

 

言語や文化の差異を超えたハイブリッドな楽曲

藤井 風が、約3年ぶりとなるニューアルバム『Prema』のリリース発表と同時に、リードトラック“Hachikō”を先行配信した。藤井 風といえば、ミュージックビデオの再生数は常に数千万回を超え、2022年発表のセカンドアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』は先日開催された〈MUSIC AWARDS JAPAN 2025〉で最優秀アルバム賞を受賞したばかり。もはや説明不要のトップアーティストである彼の新曲となれば、それだけで十分に話題性があるが、“Hachikō”にはさらに注目すべきポイントがある。

これまでにもA.G.クックやDJダヒといった海外プロデューサ―とコラボしてきた藤井だが、今回はカナダ出身のシンガーソングライター、トバイアス・ジェッソ・Jr.と、韓国のプロデューサー250(イオゴン)が参加しているのだ。ここからは、彼らの出会いと“Hachikō”という楽曲の魅力に迫っていく。

まず、クリエイター陣を整理しておこう。藤井と共に作曲を手がけたのは、トバイアス・ジェッソ・Jr.。彼と藤井が出会ったのは、2022年にロサンゼルスで行われたコライトセッション。そこでトバイアスが日本語を取り入れた曲をやってみないかと持ちかけたことが、すべての始まりだった。〈渋谷にいるあの犬の名前って何だっけ?〉とトバイアスに問いかけられたことを起点に、“Hachikō”は生まれたという。つまりこの楽曲は、言語や文化の差異を超えた偶発性の中で生まれた、きわめてハイブリッドな楽曲であるとも言えるのだ。

さらに本楽曲には、アメリカのプロデューサー/ソングライターでセレーナ・ゴメスやカーリー・レイ・ジェプセンらの楽曲も手がけるサー・ノーラン、そして韓国出身のプロデューサー250(イオゴン)もクレジットに名を連ねている。

“Hachikō”の制作プロセスについての藤井のコメントをそのまま受け取るならば、サー・ノーランはビートメイクを担い、250は楽曲のアレンジ部分に関与しているようだ(Apple Musicでは2人ともプロデューサーとしてクレジットされている)。250は、NewJeansの楽曲のプロデュースや編曲を数多く手がけていることで知られ、藤井自身は2023年の韓国公演で“Ditto”をカバーするなど、NewJeansを介して両者を結びつけることができる。

トバイアス・ジェッソ・Jr.、サー・ノーラン、250と豪華な制作陣によって生まれた“Hachikō”は、そうしたクリエイターたちのネームバリュー以上に濃密な1曲となっている。現代の音楽シーンで特異な存在感を放つクリエイターたちは、藤井 風の音楽にどんな変化を与えたのだろうか。楽曲の細かい部分に触れながら考えていきたい。