オルタナやカントリー、フォークなどのさまざまな音楽性を交えたアンサンブルと、素朴なソウルを宿したヴォーカルとの滑らかな融合で、我流のポップネスを弾けさせる3人組バンド、すなお。それぞれのルーツを尋ねてみると、その折衷性にも深く頷ける。
「大滝詠一さんや山下達郎さんのリヴァーブ感を平成生まれの僕がなるべく等身大でやれないかなっていうのが、自分のの曲作りの始まりです。あとは、ピーチ・ピットやビッグ・シーフとかの海外のインディー・ポップも好き。基本的な軸はJ-Popにあるけれども、音像は現行のインディー・ポップ感を突き詰めていきたいというのがあります」(大畑カズキ)。
「僕のルーツは海外のポップ・パンクやハードコア。だから、例えば今作なら“fruit juice”でカズキに〈8ビートをください〉って言われたときに、ストーリー・ソー・ファーのめっちゃ好きな曲を参考に叩いたりしました。でも、最終的にはそれらとは全然違うキラキラした曲になるので、〈カズキ・マジックだ〉と思ってます(笑)」(ゆーや)。
「私はスピッツやレディオヘッドなんかを聴いてきました。あとは残響系……The Novembers、People In The Boxもよくライヴに行ってたかな。それと、ブーガリンズやガル・コスタなどブラジル音楽のリズムやベースが好きで、自分がベースを弾くスタイルで言うと、そちらの影響が結構あると思います」(アミ)。
そんな3人の新たなミニ・アルバム『Sparkle pop』は、自分たちなりのポップスへと大きく振り切った一枚。胸膨らむ昂揚感と煌めきに満ちた全6曲は、ジャングリーなネオアコ・チューン“まあるい奇跡“で幕を開ける。
「特に理由もなく、ふと〈次はポップな作品にしよう〉と思ったんです。ちょうどその頃にフリッパーズ・ギターの“Camera! Camera! Camera!”を久しぶりに聴いて、これをみんなの演奏でやって、僕の声が乗ったら気持ちいいかもと思ったのもあって、今回は〈ポップにいこう〉ってなりました」(大畑)。
そのあとは、“するす・るするす”“前髪”と軽快なギター・ポップを連打。摩訶不思議な曲名然り、大畑は言葉のチョイスにも独特のおもしろさがある。
「“するす・るするす“はサビに行くまでの拍子が変で、ショート・ロング・ショート・ショート・ロング・ショート・ロング・ショートって覚えてたんですよ。なので〈SLSS LSLS〉。それをひらがなにしただけです(笑)。“前髪”は、リヴァービーでダンサブルな曲が欲しくて作った曲。当時Summer Eyeさんの『大吉』をめっちゃ聴いてて、たぶん無意識のうちに影響を受けてると思います。ドラムはハウス的なキックの音をうっすらレイヤーしたり、落ちサビのエフェクトがかかるところもいろいろ試したり」(大畑)。
「試したね。もっと太い感じでとか、潜っていくような感じでとか、“前髪”は今作でいちばん注文が多かったんじゃないかな」(ゆーや)。
「ベースについてはいつも任せてくれるんですけど、私は歌詞からフレーズを考えるのが好きで。“前髪”の歌詞はちょっと変わったお話だと思ったので、拍が途中で表裏逆に、交互になるようなちぐはぐ感を出したいな、という意識で弾いた記憶があります」(アミ)。
大畑のアイデアは、もちろん後半の楽曲にも。ストロークス“Someday“のMVから「バーの裏手で体育座りしてるジュリアン・カサブランカスが、物思いに耽りながら呑んでる様をイメージした」という親密なムードの“水滴”、「(USのインディー・ロック・バンド)ターンオーヴァーの『Good Nature』に鳴るサウンド感を気合いでJ-Popに落とし込んだ」という“fruit juice”、「最後で暗くならないようハーモニーにこだわった」という沁み入るようなミディアム“エメラルド“と続くが、どの曲にも共通しているのが、聴き手やその生活に近い距離感。その飾り気のないフレンドリーさが、すなおの大きな魅力でもある。
「けっこう重きを置いているのが、〈僕のばあちゃんが表拍で手拍子できる曲〉であること。あと、カラオケ映えもしてほしい(笑)。J-Popとインディー・ポップの融合は大きなテーマとしてありつつ、おじさんおばさんがテンポ遅れまくって歌ってても良い曲、みたいなことは常に意識していますね」(大畑)。
すなお
関東が拠点の3ピース・バンド。大畑カズキ(ヴォーカル/ギター)、ゆーや(ドラムス)を中心に制作したファーストEP『farewell』を2020年11月に配信すると同時に、本格的な活動を開始する。2022年2月の初ライヴからアミ(ベース)が加入し、2023年12月にファースト・アルバム『貝殻を拾い集めるように』を発表。2024年10月のライヴ会場限定カセット『for neighbors and era』を経て、9月3日にセカンド・ミニ・アルバム『Sparkle pop』(バップ)をタワーレコード限定でリリースする。