これは、半世紀以上のキャリアを誇る吉井氏ならではの壮挙だ。クラシック・ピアノの名曲100曲を選び、音楽史順に紹介。それぞれの曲について、主要ディスクを録音年代順に並べ、30文字の短評と◎○☆無印の評価を付している。掲載ディスクは実に5,350枚に及び、ベートーヴェンの“熱情”だけでも140枚が取り上げられている。これほど多彩な名曲と演奏を言葉で描き分けるのは至難の業だが、各曲の紹介は単なる曲目解説を超えたエッセイとなっており、読者を飽きさせない。短評からは、まるで音楽仲間の先輩からの一言のような親しみが伝わってくる。初心者には、最後に登場する武満徹から遡って読む方法もおすすめだ。