時代の先端を行く2人のヴィルトゥオーゾが奏でる圧巻のバッハ!
古楽から現代音楽までの幅広いレパートリーを誇る、現代きってのヴィルトゥオーゾ・ヴァイオリニストであるイリア・グリンゴルツは、ここ数年、バロック・ヴァイオリンも弾きこなし、その圧巻の演奏で音楽界に衝撃を与えている。圧倒的技巧と推進力あふれる演奏で世界中から注目を浴びるマルチ鍵盤奏者のフランチェスコ・コルティは、日本でもバッハのチェンバロ協奏曲の鮮烈な名演で広く名前が知られるようになった。その2人の初共演録音というだけでも刺激的なのに、その演目がバッハのヴァイオリン・ソナタであることもまた、その刺激に拍車をかける。聴く前から否応なく期待が高まるものだ。果たしてその結果は、すさまじい演奏が生み出された。
天才コレッリが完成させた〈トリオ・ソナタ〉というバロック音楽の根幹を成す形式を徹底的に研究し、極めようとしていたバッハは、この「オブリガート・チェンバロとヴァイオリンのための6つのソナタ」という曲集において、2人の奏者でトリオ・ソナタ、2つの旋律と通奏低音という3つの声部を奏でさせている。息子のカール・フィリップ・エマヌエルが「亡き父の最高傑作」と評したというこの曲集に、バッハはなんと30年もの間、改訂に改訂を重ね続けた。バッハ自身が大切にし、手を加え続けていたこの曲集を、圧倒的技巧を誇る2人の名手は、2人で奏でるトリオ・ソナタというバッハの意図を、現実の演奏として鮮やかに再現してみせるのだ。
時にチェンバロ協奏曲の様相を呈するほど縦横無尽、天衣無縫に弾きまくるコルティのチェンバロに対して、真っ向から勝負を挑むグリンゴルツの潔いヴァイオリン。高度な即興性が支配する自由度の高い演奏に聴こえながら、実は完璧にコントロールされているという信じ難いこの2人の演奏は、バッハの作曲技法の神髄に触れているといっても過言ではないだろう。間違いなくバッハ録音史に残る超名演である。
