江戸の文化を散りばめたドラマを彩る音の世界

 2025年の大河ドラマは、戦のない江戸中期を舞台に、蔦屋重三郎を中心に心躍るエンタメを求めた物語「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺」だった。その物語を彩る音楽のサントラは、すでに3タイトルもリリースされていて、本編後の「べらぼう紀行」の楽曲を含めて計61曲が収録されていた。そこから厳選された16曲と、新曲5曲を収録したのがこの『The Best』になる。

JOHN GRAHAM 『大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」オリジナル・サウンドトラック The Best』 コロムビア(2025)

 べスト盤は、番組のオープニングを飾るメインテーマ曲“Glorious Edo”から始まる。訳すと、〈素晴らしき江戸〉となり、ドラマではまさに素晴らしい江戸時代の大衆文化と、それを取り巻く庶民の姿が描かれているわけだけれど、なぜ英語なのか。実は、今回音楽を手懸けたのはアメリカ出身のジョン・グラム。大河ドラマは、2020年の「麒麟がくる」に続く2回目になり、音楽のみならず文学、歴史、芸術など多岐にわたり豊富な知識を誇ると評判の作曲家だ。しかももともと浮世絵に興味があり、歴史書、美術書を読み、日本の美術館も訪れるなどして江戸文化の知識を深めていくなかで、膨大な数の劇中曲を作曲していったという。

 それが存分に反映された楽曲、たとえば、“江戸の錬金術師”や“江戸の鼓動”にはあの時代の活気を感じ、“花魁道中”では吉原の豪華絢爛な光と同時に女たちの悲哀という陰も奏でられている。演奏するのはNHK交響楽団をはじめ、ブタペスト、ナッシュビルでもレコーディングされた。いずれの曲も壮大でありつつ、緻密な楽器編成、メインテーマではハンガリーの民族楽器ツィンバロンが奏でられたりするが、完璧ゆえにどこか緊張感も漂う。その張り詰めた時間が続いた後、18曲目に流れてくるチェリストの宮田大をフィーチャーした“べらぼう紀行”がドラマとは異なる感情を満たしてくれる。それを含めて、ベスト盤の要となる曲順も素晴らしく、「べらぼう」の世界をもっと知りたくなってくる。