冷静にこれまでの歩みを見つめ直した結果、自身の特性を改めて見い出した5人。13階段を上った先には、バンドという集合体だからこその最高到達点があった!

自分たちらしいバランス感

 攻撃性も叙情性も奔放に封じ込めた個性的な存在。特に昨今のlynch.は、完璧と言っても過言ではない作品とライヴ・パフォーマンスで多くのリスナーを魅了してきた。しかし、そういった実績も通過点でしかなかったのだと思わせるのが、このニュー・アルバム『GALLOWS』だ。彼らの音楽性は絶妙なバランス感覚で構築されているのだということを、本作に耳を傾けてみれば改めて確認できるだろう。まさに新たな代表作たる風格が漂っている。

 「結成10年目で、lynch.というものが決定付けられる作品が出来たことに安心しましたね。音楽的なことで言えば、もっともポップと言われる『SHADOWS』(2009年)、もっとも激しい方向に寄った、前作にあたる『EXODUS-EP』(2013年)。その両方の要素が混在しているというよりも、ひとつのものとして融合した、本当にハイブリッドな作品になったなと自負しています」(玲央、ギター)。

 「変な言い方かもしれないですけど、〈中性的〉なアルバムになった気がするんです。激しい曲から静かな曲まで幅はあるんですよ。でも、例えばいちばん激しい曲を右、いちばん静かな曲を左とすると、これまでは右から左までの間で、それぞれの位置付けの曲がある感じだったんですけど、今回は右/左の要素が曲ごとにテッペンで出ている印象なんですよね。だから、キャッチーさがすごくある」(晁直、ドラムス)。

lynch. 『GALLOWS』 キング(2014)

 ただし、本作が完成に至るまでの道は、必ずしも平坦ではなかったとも話す。

 「気負いみたいなものはいろいろありましたよ。そろそろバンドとしてガチッとしたものを出さなきゃいけないとは思ってましたし。今回、lynch.にしては時間に余裕がある感じではあったんですよ。なんだけど、何か焦りみたいなものがずっとありましたね。理由はちょっとわからないんですけど、ギリギリまでホントにどうなるかわからなくて。曲が出揃って、スタジオでみんなで音を合わせるようになって、初めて手応えを感じたんですよ。作っている途中と完成したときの温度差は、いままででいちばんデカいかもしれない」(葉月、ヴォーカル)。

 それは逆に言えば、バンドという集合体だからこそ最高到達点へと行き着いたと解釈できるエピソードでもある。そして、制作面で主導的な立場にある葉月には、もうひとつ注目すべきポイントがあった。

 「僕のなかでいちばん重要だったのは歌詞なんですね。日本語の量が圧倒的に多くなっている。『EXODUS-EP』では8〜9割が英語でしたけど、果たしてホントにこれは自分にとっておいしいのかなと考えるようになって。英詞はどうしても洋楽には勝てないといった意識も正直あったんですよ。でも今回は、例えば“GREED”や“GUILLOTINE”には僕の特徴的な日本語の使い方が表れているかなと思うんですけど、それもひとつのオリジナルだろうという捉え方を初めてしたんですね。その意識で書いた日本語詞だから、僕のなかではいままでとは全然違ってて」(葉月)。

 「先日も海外のアーティストと共演させてもらったんですけど、ロック・バンドをやってる人間には、洋楽至上主義みたいなところが少なからずあったりすると思うんですよ。でも、やっぱり僕ら日本人はどう転がっても邦楽なわけだし、そこに誇りを持っていたい気持ちがあるんですね。だから、日本語を大事にしたいという話が葉月から出たときには、大賛成でした。日本のロック・バンドだからこそできるもの。その意味では、例えば“GALLOWS”の(英詞と日本語詞の)バランス感は僕らならではですよね」(玲央)。