
高校時代から親しむメンデルスゾーン作品を収録できた嬉しさ
――アルバムの中でメンデルスゾーンの作品は特に力を入れていると聞きました。
「アルバムの中で最も収録できて嬉しかったのがメンデルスゾーンです。特に“オルガン・ソナタ第6番 作品65”には高校生の時から親しみ、東京藝術大学受験のほか、リューベックの卒業試験でも弾きました。この曲はドラマ性があり、心に響くので、大好きな一曲です。そして、メンデルスゾーンはバッハの音楽を再評価した功労者であり、メンデルスゾーンからバッハという流れは当然考えていました。メンデルスゾーンがいなければ、今のバッハの名声もありませんでした。
メンデルスゾーンのもう一曲である“厳格な変奏曲 作品54”は高校生の時にピアノで勉強しました。当時の私にはこの曲をオルガンを弾くという概念がまだなかったのですが、フランスのトゥールーズで勉強していたとき、ミシェル・ブヴァール先生がサン・セルナン教会でオルガン編曲版を演奏していたんです。サン・セルナン教会にはカヴァイエ=コルという高名なオルガン製作者による歴史的な楽器があるんですね。その演奏がすごくよくて、私もオルガン編曲版を演奏するようになりました。ロマン派的なオルガンで弾くのもいいですが、バロックオルガンでもいいと思います」
――オルガン用に編曲した曲も素晴らしく、大変興味深いです。
「ピアノ曲をオルガンに編曲する際、より自由な音色の可能性があると思います。オーケストラ曲は楽器がすでに決まっているので、ピアノ曲の編曲の方が自由に自分のイメージをオルガンで表現できますね。
変奏曲についてはオルガン編曲が2つあるのですが、今回はシュメーディングによって編曲された楽譜です。ほぼピアノそのままで省略もなく、ヴィルトゥオーゾ的な感じが強い編曲ですね。メンデルスゾーンの変奏曲を入れることができたのはとても嬉しかったです。ピアノをよく聴く人には有名な曲ですが、原曲を知らない人にも多彩な音色が楽しめるように弾きました」
――先ほどメンデルスゾーンがバッハを再評価したという話をしましたが、オルガンと言えばやはりバッハですね。
「バッハについては、アルバムに入れた“幻想曲 ト長調 BWV572(ピエス・ドルグ=オルガン曲)”はフランスの影響を受けて作られた曲です。クープランなどフランス作曲家の影響が見て取れますし、グリニーの曲を写譜していたという逸話があるように、バッハのフランス音楽に対する関心と敬意が表れています。まだ長距離移動や情報収集が困難だった時代にもかかわらず、バッハが多様な地域の音楽に関心を示していたことは素晴らしいです。
その他、バッハ作品は“最愛のイエスよ、われらここに集まりて BWV731”、誰もが知っている“主よ、人の望みの喜びよ BWV147(デュリュフレ編曲)”を収録しています」
中学時代から通い続ける地元・下谷教会への愛
――アルバムを収録した日本基督教団下谷教会との関わりを教えてください。上野駅の目の前にこのような伝統ある教会があるとは知りませんでした。
「上野の日本基督教団下谷教会のパイプオルガンができたのは2009年です。下谷教会には中学1年生の時から通っていて、当時私が高校生の時にパイプオルガンが完成しました。東京藝術大学名誉教授・廣野嗣雄先生がアドバイザーを務め、北ドイツ・バロック楽派のオルガンをイメージして作られましたが、一般的に鋭いイメージがある北ドイツのオルガンよりもかなり柔らかい、まろやかな音が鳴ります。かわいい音から荘厳な音まで、多彩な音色が出せると思います。
今私は下谷教会のオルガニストをやっていますが、教会には何人かのオルガニストがいて、牧師夫人も藝大オルガン科の先輩なんです。私は生まれも東京都台東区と地元で、大学も東京藝大なので、下谷教会にはとても思い入れがあります。ここのオルガンができてからは、留学時代を除いて高校2年生から15年くらいずっと弾いていますね」
――ドイツ系のオルガンなのに柔らかい音も出るというのは面白いですね。
「下谷教会のオルガンはドイツ系の割にどぎつい感じがなく、フランス的な音色も出せるのが特徴です。倍音が2段目に揃っていて1段目はいわゆるオルガン的な音が出る。もちろんドイツ系の音楽が一番合うのですが、音の組み合わせによってドイツものに加え、フランス系の音も出せる。そうした多彩な音色、オルガンの魅力を最大限伝えたいです」