いつもと違う視点や発想、少しの創意工夫によって世界は良くなる。音楽の可能性を疑わない2人が新作『EYE』に込めた曇りなきメッセージ――未来はきっと美しい!!

宇宙とか海とか

 ボカロP出身のツミキとシンガー・ソングライターとしても活動するみきまりあによる2人組ユニット、NOMELON NOLEMONが2年半ぶりとなる3作目のアルバム『EYE』をリリースした。前作以降にツミキは4人組バンドのAoooを結成し、みきまりあは初のソロ・アルバム『i my PINK』を発表と、個々の活動も活発化。そうした動きの一方で、NOMELON NOLEMONとしては「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」や「るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 京都動乱」などアニメの楽曲を手掛け、その手応えの先にフル・アルバムがあった。

 「初めてアニメのタイアップをいただいて、シングル一曲一曲の強さをずっと意識して制作しました。それらの曲も今回のアルバムには入っているので、まさにこの2年半の経験が全部詰まった、すごく濃い作品になったと思います。アルバムのテーマに関して話し合いをする前から、お互い宇宙のイメージがあり、解釈は最初から一致していました」(みきまりあ)。

 「全体のテーマとして、自分の半径何m以内の世界じゃなくて、宇宙とか海とか、もっと外側に開けた世界観にしたかった。それはガンダムの曲を担当したことも大きいし、そもそも自分たちは実験的なことをポップスに落とし込みたいと思っていたので、宇宙や天体、科学的なモチーフとの親和性はすごくあると思っていたんです」(ツミキ)。

NOMELON NOLEMON 『EYE』 ソニー(2026)

 NOMELON NOLEMONの音楽性は、ツミキのルーツにある90〜2000年代のバンドを背景とした歪で尖ったロックと、ボカロPでの活動で培ったプログラミングによるクラブ・ミュージックと、大きく分けて2軸があるように思うが、『EYE』の基調となっているのは後者。その背景として、「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」の挿入歌としてヒットを記録した“ミッドナイト・リフレクション”の存在が大きいと言える。

 「前作以降のシングルは“水光接天”を除いてエレクトロニックなサウンドだったので、アルバムも全体的にはその方向性にしたいと思ってました。“ミッドナイト・リフレクション”は疾走感を意識しつつ、やっぱりガンダムの曲なので、肉体的なものというよりは、もうちょっとメカニックなイメージがいいと思って、ドラムンベースとかジャングルにトライしようと思ったら、まりあもちょうどドラムンベースに傾倒してた時期で」(ツミキ)。

 「ピンクパンサレスにすごくハマって、〈この感じを試したい〉と話した記憶があります。歌ってみたらとても新鮮で、〈これだ!〉ってなりましたね」(みきまりあ)。

 4つ打ちのヴァースとバンド・サウンドのコーラスの対比がドラマティックな“シーグラス”、ベース・ミュージックからレゲトンまでさまざまなビートを一曲に詰め込んだ“ミテミテ”も、アルバム全体のクラブ・ミュージック的な色合いを象徴している。

 「宇宙をモチーフにした曲が続いたので、一回逆に行ってみようと海をテーマに制作したのが“シーグラス”。海の冷たさと安心感が共存したようなものにしたくて、エレクトロの冷たさと、バンドのアナログ感をどう融合させるかを考えました。“ミテミテ”はハイパーポップっぽいサウンドを作りたいと思って、当時聴いていたアンダースコアーズやヘルプをかなり参考にしました。もともとピカソのキュビズムを意識していたので、楽曲自体もコラージュ的というか、いろんなジャンル感がごちゃ混ぜになったキメラ的な感覚があると思います」(ツミキ)。

 

世界をちょっとだけ良くしたい

 このユニットはツミキが作詞・作曲・編曲の軸を担っているが、みきまりあも作詞・作曲できることは大きな強み。彼女が詞曲を担当し、椎名林檎のような妖艶なムードで、〈後ろに感じる冷たい視線の眼 はやくこの瞬間から逃れたいけど〉と歌い出す“焦熱”は、どんな葛藤や焦燥を表したのかと思いきや……。

 「この歌詞のテーマはラーメンです(笑)。私、ラーメンがめちゃめちゃ好きで、一人で並んで食べることもあるんですね。『EYE』というタイトルがあらかじめ決まっていたので、目とか視線をテーマにしたいと思ったときに、自分がラーメンを食べているときに感じる、並んでる人たちの視線について書こうと思って。焦ってる心情とは対照的にサウンドを冷たい感じにすることで、ゾクゾクするような感じを出しました」(みきまりあ)。

 「この曲はある意味、遊びとして自分がやりたかったことにトライしました。グリッチ・テクノ/ハードコア・テクノ的な音をめざして、結果的に新境地になったし、すごく気に入ってます」(ツミキ)。

 一方、〈るろうに剣心〉のエンディング・テーマになった“水光接天”をはじめ、歪んだギターが唸るエモーショナルなロックもアルバムの重要なアクセントに。サイケに傾倒した時期のオアシスを連想させる“カイカ”は、アルバムの重要なオープナーになっている。

 「“カイカ”は90年代のオルタナをイメージして、僕的にはレディオヘッドからの影響も取り入れて制作しました。90年代の曲を聴くと、いまほど鬱屈してないというか、未来が明るい感じ、発明がまだたくさんあった時代だったように感じるんですよね。なので、そういう時代の強さを1曲目に持ってきたいと思ったのと、2曲目の“ミッドナイト・リフレクション”に繋がるような、文明がどんどん発達して、ついにロケットを飛ばすときのような曲にもしたくて。歌詞の最初の〈さあ行こう〉はガガーリンが宇宙へ出発するときに言った言葉です」(ツミキ)。

 宇宙へと飛び立ったロケットが、ときに大気圏を突破し、ときに海の底へと潜りながら、最後に辿り着いたのは“I THINK”。パンキッシュな演奏を叩き付けるこの曲では、ツミキとみきまりあが歌詞を共作し、〈意味とか理由がひとりにさせる〉時代の中で、〈ひらめきがきっと世界を変える〉〈“わからない”が愛おしくなる〉と、力強いメッセージを投げかける。その目で〈I〉と〈愛〉を見つめ、視線の先には明るい未来があることを信じている。

 「どんなアルバムにしたいかを考えるなかで、〈世界をちょっとだけ良くしたい〉というテーマが浮かんだんです。1曲で世界をひっくり返すことは難しくても、その曲を聴いた人の見る景色が変わったり、それぞれが持ってる世界を変えたりすることはできると思うから、聴いてくれる人に何か手を差し伸べられたらなって。1番の歌詞を書き終えたあとに、2番はまりあに書いてほしいと思ったんです。この曲を2人からのメッセージにしたかったから」(ツミキ)。

 「歌詞もサウンドもストレートで、すごく刺さる曲だと思ったので、自分も日記のように思ったことをそのまま投影した歌詞にしたいと思いました。私はいろんなことを考えちゃいがちな性格で、普段生きているなかでも、誰かの言動に対していちいち意味とか理由を考えちゃうんです。でも、いろいろ考えても結局わからないことばかりで、むしろ正解がないことが自分にとっての救いだし、それすらも愛おしいと思える。それをそのまま歌詞にしました」(みきまりあ)。

 「いまはSNSが発展して、人のネガティヴな部分も目に付きやすい時代。特に若い世代はそういう外的な要因で辛い思いをしてる人も多いと思うんです。でも大事なのは外側よりも内側で、自分が何かを考えたり、ひらめいたりすることで、それぞれの世界は変えられる。だから、聴いてくれる人にもっと自分を大事にしてほしいと思ったし、そのためにも最後は〈未来はうつくしいよ〉って言い切りたいと思ったんです」(ツミキ)。 *金子厚武

NOMELON NOMELONの作品。
左から、2024年のシングル“水光接天”、2025年のEP『HALO - EP』(共にソニー)

本文中に登場したアーティストの作品を一部紹介。
左から、ピンクパンサレスの2025年のミックステープ『Fancy That』(Warner UK)、レディオヘッドの95年作『The Bends』(Parlophone)

 

NOMELON NOLEMONやソロ……独創性に溢れたこれまでの作品を紹介!!

ツミキ 『SAKKAC CRAFT』 ソニー(2021)

ツミキ   SAKKAC CRAFT
ソニー(2021)
ボカロPとして発表した唯一のアルバム。初音ミクの歌唱で統一された9曲は、隙間がないほど音が詰め込まれていながら、カオティックに陥ることなく整然と制御されている。その濃密な情報量と構築力に、ツミキの才気が刻まれた一枚。

 

NOMELON NOLEMON 『POP』 ソニー(2022)

NOMELON NOLEMON   POP
ソニー(2022)
『SAKKAC CRAFT』を経て、他者との活動に魅かれたツミキが、みきまりあと結成。このファースト・アルバムでは、耳を驚かせる刺激的な音作りと、官能性と爆発力を併せ持つ歌声を重ね、歪さをフックにする彼ら流の〈ポップ〉を提示した。

 

NOMELON NOLEMON 『感覚派』 ソニー(2022)

NOMELON NOLEMON   感覚派
ソニー(2022)
〈感覚的に楽しめるもの〉をめざしたというEP。メロウなR&Bの“フィルム”やツミキもヴォーカルを取るUKガラージ調のポップ“ウィスパー・シティ”、ジャズとソリッドなロックを正面衝突させた“タッチ”など多彩な5曲を収録している。

 

NOMELON NOLEMON 『ルール』 ソニー(2023)

NOMELON NOLEMON    ルール
ソニー(2023)
ギター・ロックとダンス・ミュージックの双方でパワフルさを増したセカンド・アルバム。みきまりあの作詞・作曲への関与が増えたのも特徴で、なかでもアンビエントなシンセ・ポップからビッグ・ビートに様変わりする“二日酔ヘル”がおもしろい!

 

みきまりあ 『i my PINK』 sambafree(2024)

みきまりあ   i my PINK
sambafree(2024)
水槽を迎えた“アイロニ。”などを収録した彼女のファースト・アルバムはタワレコ限定でCDパッケージ化されている。ギミックを抑えたトラックゆえ、自然体の可憐な表情が映し出されており、NOMELON NOLEMONとは一味違う魅力あり。

 

Aooo 『Fooocus』 ソニー(2025)

ツミキ、石野理子、すりぃ、やまもとひかるによるバンドが、前年の初作からわずか半年後に発表したEP。ツミキが手掛けたハイテンションな“BAQN”を含む4曲は、J-Rockとオルタナの狭間でいま発展する新しい感覚と共振している。

 

多方面からラヴコールが止まないツミキのフルスロットルな歩みをプレイバック!

 97年生まれ、大阪出身のツミキは音楽に身近な家庭環境で育ったこともあり、弱冠12歳でフリーソフトを使った作曲を始めたという。そして、2017年からボカロPとして活動し、初めて投稿した楽曲“トウキョウダイバアフェイクショウ”が、いきなりニコニコ動画で10万回再生の〈殿堂入り〉を果たす。以降、自身名義の楽曲をコンスタントに発表しつつ、ソングライター/トラックメイカーとして多くのアーティストの作品に参加するように。2019~2021年頃は、かいりきベア、めいちゃん、そらるといったボカロP~歌い手へのリミックスや楽曲提供が目立つ一方、ソロでの代表曲として名高い“リコレクションエンドロウル”“フォニイ”などが、神田沙也加や和楽器バンドらにカヴァーされるなど、ツミキの名前は幅広い嗜好性のリスナーへと着実に浸透していった。

 NOMELON NOLEMONとして『ルール』を発表した2023年前後から、メインストリーム畑での仕事がそれまで以上に増えていき、ハイパーポップ調のロック“赤裸々”(2022年)とジャージークラブを取り入れた“感情御中”(2024年)をReolに、クリスタルなハウス“polar night”(2023年)を上坂すみれに、シンフォニックなロック“GLOW”(2023年)をシユイに、ディスコ・ハウス“ビビデバ”(2024年)を星街すいせいに、2000年代J-Rock愛を発揮した“ハルシネイト”(2024年)をLiSAに提供。また、鈴木愛理とコラボした洒脱なミディアム“shampoo”(2023年)は、春野によるリミックスが鈴木の『28/29』に収録されている。

 MAISONdesの一環として花譜と組んだ“トウキョウ・シャンディ・ランデヴ”(2022年)を収録したTVアニメ「うる星やつら」の主題歌集『Noisy Love Songs - MAISONdes × URUSEIYATSURA Complete Collection -』は、みきまりあがニト。とコラボした“バイマイダーリン”も入っており要チェック。最近でも、アレンジを手掛けた、なとりの新作『深海』収録曲“セレナーデ”(2025年)がシングルとしてリカットされるなど、印象的な外仕事を残すツミキ。ここではパッケージ化されているものを紹介したが、Adoの“MAGIC”(2025年)など(現時点では)配信のみのものも少なくない。いずれの楽曲も、密度の濃さとキャッチーさが共にフルスロットルな仕上がりに作家性が迸っているが、そこで培われたノウハウはNOMELON NOLEMONにも活かされているのだろう。ツミキの充実した創作活動が、ブライトフルな『EYE』に結実したことは間違いない。 *田中亮太

左から、かいりきベアの2020年作『ベノマ』(Subcul-rise)、めいちゃんの2020年作『大迷惑』(ポニーキャニオン)、そらるの2021年作『ゆめをきかせて』(ユニバーサル)、神田沙也加の2019年作『MUSICALOID #38 Act.2<彼方乃サヤ盤>』(EXIT TUNES)、和楽器バンドの2022年作『ボカロ三昧2』 (ユニバーサル)、上坂すみれの2023年のシングル“ハッピーエンドプリンセス” (キング)、シユイの2024年作『be noble』、星街すいせいの2024年のシングル“ビビデバ”(共にソニー )、Reolの2023年作『BLACK BOX』、2026年作『美辞学』(共にNeOFRONT)、LiSAの2024年のシングル“Shouted Serenade”(SACRA MUSIC)、鈴木愛理の2024年作『28/29』(エピック)、MAISONdesのコンピ『Noisy Love Songs - MAISONdes × URUSEIYATSURA Complete Collection -』、なとりのニュー・シングル“セレナーデ”(共にソニー)