日本のロック史において稀有なバンド

2025年5月に開催された〈MUSIC AWARDS JAPAN〉の第1回授賞式で、最優秀国内オルタナティブアーティスト賞と“more than words”での最優秀国内オルタナティブ楽曲賞の2部門を受賞した羊文学。近年は横浜アリーナや国立代々木競技場 第一体育館といった大規模な会場でライブをおこない、アジアやヨーロッパでもツアーを実施、いまや名実ともに日本を代表するロックバンドのひとつと言っていい。ごく初期から彼らの作品やライブに触れ、とてつもないポテンシャルを感じていたとはいえ、“more than words”の広がり方などには驚くばかりだ。

ロックバンドが活動の規模を広げていく過程でポップ(あるいはJ-POP)を意識し、苦闘してきたことは、よくメンバーの口から語られる。スピッツやL’Arc-en-Cielといった90年代デビュー組には特にその印象があるが、羊文学はピュアなオルタナティブロックのスタイルを貫きながら現在の立ち位置にのぼり詰めたバンドで、この国のロック史においてもひじょうに稀有な存在だと思う。ロックバンドとしての最小限のアンサンブルとざらついたサウンドを手放さずに守りとおしている姿には、流行や権威といったもの、その何にも阿らないという意味で、頑ななまでの意志の強さを常に感じる。最新シングルの“Dogs”にしても、激しくひりついたオルタナティブロックをあいかわらず聴かせている。

そんな羊文学ではあるものの、スタイルをまったく曲げないままに国境も越えて広く支持されている理由は、やはりその歌心にあるのだと思う。「私は歌の人だから」とは、今回完全生産限定盤としてレコード化される『D o n’ t L a u g h I t O f f』についてのインタビューでも塩塚モエカ(ボーカル/ギター)が言っていたことだ。本作においても、“Feel”“声”のような曲のミックスの面などで歌がしっかりとフィーチャーされており、親しみやすく、それこそポップなメロディがど真ん中にある。

羊文学 『D o n’ t L a u g h I t O f f』 F.C.L.S.(2025)

そして、その強靭な歌心こそが、オルタナティブロックを演奏する羊文学がさまざまなタイアップソングを作りえている理由なのだろう。『D o n’ t L a u g h I t O f f』においても、テレビアニメ「【推しの子】」第2期のエンディングテーマ曲“Burning”、フジテレビ系月9ドラマ「119エマージェンシーコール」の主題歌“声”などを収録しているのは、トラックリストを見てもらえればわかるとおり(なお、今年の第2回〈MUSIC AWARDS JAPAN〉では“声”が最優秀オルタナティブ楽曲賞にノミネートされており、バンド自体も最優秀オルタナティブアーティスト賞の候補に再び選出されている)。

 

リリースから7か月、早くも名盤の風格漂うアルバムがアナログ化

D o n’ t L a u g h I t O f f』は、2025年10月にリリースされた5作目のアルバムだ。昨今、年末にSNSで個人的なベストアルバムをリストアップする音楽ファンは多いが、2025年末には本作を挙げているリスナーが多く、インスタントクラシックと呼びたい風格がすでに備わっているアルバムだと思う。

リリース当時はドラマーのフクダヒロアが休養中で(2025年年末に脱退)、アルバムは塩塚と河西ゆりか(ベース)の2人で制作され、“tears”のようにフクダがドラムを叩いた曲もあるが、サポートドラマーのYUNA(元CHAI)が演奏している曲も収録されているという。

アルバムは、ピアノの音で始まる。“そのとき”は塩塚が打ち込んだピアノとギターと歌だけの「自分の趣味で作ってた曲」だそうで、そんな曲を幕開けに据えていることにより、かなり親密な空気を漂わせている。そして、2分過ぎに鋭いフィードバックノイズとともにバンドの演奏が重なり、塩塚の繊細で私的な世界が〈羊文学の音楽〉へと開かれていく。「アルバムの前書き」「本編に入る前の曲」とは塩塚の言だが、その言葉どおり、リスナーを羊文学の世界へといざなう見事なオープニングだ。