〈音の魂〉そのものに向き合う、ソニーのワイヤレスイヤホン
かつて、贅沢なリスニング環境の象徴といえば巨大なスピーカーとプレーヤー、アンプが鎮座するオーディオルームだった。けれども現在は、耳の中に収まる小さなワイヤレスイヤホンにより、音楽の感動をかみしめることができる。オーディオ技術の進化は、以前は一部の愛好家だけのものだった究極の音響体験を民主化してきた歴史そのものだ。ソニーの〈WF-1000XM6〉は、まさにその到達点と呼ぶべきワイヤレスイヤホンだ。
本機の最大の特徴は、スペック表の数字以上に〈音の魂〉そのものに向き合っている点にある。ソニーは開発にあたり、世界的に名高い4人のマスタリングエンジニアと深く共創した。マスタリングエンジニアとは、録音された楽曲の最終的な音質を決定づける〈音の番人〉だ。イヤホンの音づくりにはテイラー・スウィフトや米津玄師の楽曲を手がけるランディ・メリル、レディー・ガガやMrs. GREEN APPLEを担当するクリス・ゲーリンジャー、空間音響の権威であるマイケル・ロマノフスキ、そしてリイシューの旗手としても知られるマイク・ピアセンティーニの4人が参加した。彼らが目指したチューニングは、アーティストが楽曲に込めた想い、スタジオの空気をありのままユーザーの耳に届けることだった。
筆者もはじめてWF-1000XM6のサウンドに触れた時に、その圧倒的にリアルなサウンドに思わず息を呑んだ。眼前に立ち上がる音像の鮮明さは、ソニーが〈世界最高クラス〉をうたう、本機のアクティブノイズキャンセリング機能によって引き出される。本機の心臓部には、音質やノイズキャンセリング機能をコントロールするソニー独自設計のプロセッサーが搭載されている。さらに、エッジ部に特許出願中の特殊形状を採用する専用設計の8.4mmドライバーユニットが組み合わさることで、伸びやかな高音域と温かみあふれる低音域の表現が可能になった。オーケストラの演奏を聴けば、それぞれの楽器が配置された空間の立体感が伝わってくる。ボーカリストの微かな息づかいや、ギターの弦を弾く指の情景も生々しい。
音楽再生により深く没頭するためには、外界の雑音を遮断する〈静寂〉が欠かせない。WF-1000XM6は、前世代のモデルに比べて約25%もノイズを低減する、世界最高クラスのノイズキャンセリング機能を搭載している。これは専用プロセッサーの進化に加え、マイクの数を片側4個、両耳計8個に増やしたことも大きく寄与している。例えば電車での移動中や賑やかなカフェなど、屋外にいる時にも、本機を装着した瞬間に上質な静寂に包まれる。それはあたかも、自分だけのオーディオルームがその場所に作られるような感覚だ。
音質や機能の向上を果たした一方で、装着感も磨きあげた。歴代の1000Xシリーズが探求してきたエルゴノミック・サーフェス・デザインを進化させて、デザインも前世代のモデルから大きく変えた。楕円形のシェイプは耳の肌との直接的な接触を抑えつつ、しっかりと保持する形状を追求したことによって生まれた。正しく耳に装着すれば、最高の音質とノイズキャンセリング効果が得られる。長時間の使用でも疲れにくいだろう。本体に独自の通気構造を設けたことで、ユーザー自身の足音や咀嚼音が響く不快な体内ノイズも低減する。音楽をじっくりと、心ゆくまで味わうための配慮が筐体の隅々にまで行き届いていると感じる。
ソニーのフラッグシップモデルである本機は、決して安価な選択肢ではない。しかし、世界を代表するエンジニアたちが心血を注いだ音響設計と、最新テクノロジーがもたらす比類なき静寂には、確かな価値が宿っていると筆者は思う。このサウンドを体験すれば、何度も聴き込んだ楽曲からまた新たな感動が発見できるはずだ。一生を共にするにふさわしいワイヤレスイヤホンが、日常の音楽体験を新たなステージへと引き上げてくれる。

山本敦(やまもと・あつし)
オーディオ・ビジュアル専門誌の編集・記者職を経て2013年からフリーランスとして活動。ハイレゾやワイヤレスなど最新技術に対応するモバイル端末やコンシューマーオーディオの音質レビュー、使いこなしに関連する記事を中心に執筆。得意の外国語で海外有名ブランドの開発者インタヴューも数多くこなす。