他者と言葉を交わし、手を取り合い創造することで、解像度が上がる私という存在――新しい生活や考え方から生まれた2つの新作には晴れやかな素顔が映し出されている!!
2021年にSNSにアップした楽曲“紡ぐ”が注目を集め、一躍脚光を浴びたシンガー・ソングライター、とた。当初は顔を出さず、ライヴも行わずに活動していた彼女だが、2023年のファースト・アルバム『oidaki』以降はそれらを解禁。そうした変化のなかで、新たな挑戦を続けてきた。「『oidaki』を出してすぐに一人暮らしを始めたんです」と話す彼女。「制作する場所も変わったし、環境が変わって作る曲もどんどん変わってきました」という。
そんな3年間の足跡と、その先にある〈いま〉のとたを記録したのが、『Sebone -脊椎盤-』と『Sebone -脊髄盤-』の2作のアルバムだ。『脊椎盤』には前作以降のシングルがすべて収められ、『脊髄盤』には彼女のライヴでバンマスを務める久米雄介と二人三脚で作られた8つの新曲が集められている。
『脊椎盤』の楽曲には多彩なアレンジャー/プロデューサー陣が参加。彼女の声にもともと宿る切なさをササノマリイのサウンドメイクで増幅させたかのような“Transpose”や、川谷絵音がピアノやストリングスを軸に繊細なアレンジを施したラヴソング“催眠術”などに加え、代表曲“紡ぐ”の吹奏楽アレンジや、Tomgggによる“ブルーハワイ”のリミックスなど、初期の楽曲をアップデートしたようなヴァージョンも新鮮だ。さまざまなクリエイターとの共同作業が増えたのはもちろん、これらの楽曲の中にはアニメやドラマとのタイアップ用に書き下ろされた曲も多い。ずっとDIYで曲を作り続けてきた彼女にとっては、それも挑戦だった。
「誰かと一緒に曲を作るなかで、〈自分だったらこうするな〉ということもよりわかるようになったんです。他者と話すからこそ自分の傾向がわかっておもしろかった」。
人と作ることで鏡を見るように自分を知っていったとた。その先で生まれたのが、全編新曲の『脊髄盤』だ。「好きなものとかをたくさん共有できている」関係だという久米と一緒に作った8曲は、力強いドラムとベースがバンド・サウンドを牽引するパワフルな“なんとも思ってない”をはじめヴァリエーション豊か。のびのびと自由に音楽に向き合って生まれたことが、その響きから伝わってくる。
「〈いまの自分を見てもらいたい〉って思えるようになったことを残したかったから、日記的に曲を作りました。“脱毛”という曲なんて、皮膚科の待合室にいるときに5分ぐらいで歌詞を書いて、メロディーを付けたんです。それくらい、あえて自分のままでいるような書き方をしています」。
『脊髄盤』には前作にも入っていた“薔薇の花”のニュー・ヴァージョンも。聴き比べると、リズムや歌詞を変化させているのがわかる。その理由を尋ねると、彼女の生活に対する捉え方の変化も浮かび上がってきた。
「この曲はずっと8分の6拍子でやっていたんですけど、淡々と続いていく生活のリズムって8分の6ではないような気がして。大きく盛り上がる展開も違うなと考え、あえて4分の4にしました。歌もボソボソと喋るような感じにして……」。
彼女は、淡々と続いていく日々の生活を受け止めながらも、だからこそ、そのなかに潜む心の動きを大事にしたいと語る。その姿勢を象徴しているのが、〈ベッドの下の あれもこれも ほんとの私だよ 聞いて〉と言いながら〈中指立てたい〉と連呼する、遊び心に溢れたダンス・チューン“滅亡”だ。
「〈中指立てたい〉というのは〈自分の頭の中をぶちまけてしまえたらな〉という願望。中指を立てることは良くないと言われているけど、頭の中では〈なんだそれ〉って思っている自分もいる。〈いつ死ぬかわからないし、隠さずに言いたいことを言わないとな〉と思って書きました」。
これまで見せてこなかった、とたの〈素顔〉が『脊髄盤』には詰まっている。「言いたいなって思っていたことや感覚を音に落とし込めたという達成感がありますね」というアルバム2作は、とたというアーティストと改めて出会う絶好のチャンスになるはずだ。
2作品のCDとライヴDVD、本人描き下ろしデザインのオリジナルTシャツをセットにした完全生産限定の『Sebone -脊髄盤+脊椎盤-』(RECA)
左から、とたの2023年作『oidaki』(RAINBOW)、ササノマリイが在籍するDiosの2025年作『Seein' Your Ghost』(Dawn Dawn Dawn)、川谷絵音が在籍する礼賛のニュー・ミニ・アルバム『キラーパス』(Daphnis)、久米雄介がプロデュースを担ったみらんの2023年作『WATASHIBOSHI』(NOTT/NiEW)

