「それまでが怒涛のスケジュールだったので、一度ちゃんと考える時間を作りたくて、最初はゆっくりしてたんですけど、やっぱり焦りもありましたね。いつチャンスが来ても動けるように歌やダンスのレッスンは続けてはいても、自分からどう動けばいいかもわかんないし……みたいに思っていた頃にMAISONdesへの〈入居案内〉をいただいたんです。そこで自分の夢や目標に近付ける道筋が見えたというか、ふわっとしてたものが少しずつ具体的に想像できるようになりました。そもそもずっとグループで活動していたのもあって、ソロでやるっていう選択肢が自分の頭の中に全然なかったんですよ。だから、〈その手段があるのか!〉と思いました(笑)」。

 GANG PARADEなどの活動を経て昨年秋にMAISONdesに入居し、そこから〈新世代のラブソングシンガー〉としてソロ・デビューを飾った華乃(かの)。恋愛ソングに特化したスタンスはそれ以前の表現からの脱却を明示するものだろう。

 「時代によって恋愛観って変わるじゃないですか。いまの世代ってSNSが原因で、昔はなかったような面倒臭い感情が生まれて掻き乱されたりすることも多いと思うんです。そこは自分が同世代だからこそ表現できると思うので、そういう世代の人たちの恋愛の悩みや感情に寄り添えるような音楽を届けていきたいなって」。

 そのように受け手の共感を誘う楽曲はいずれもボカロP出身の人気クリエイターたちの手掛けるモダンな意匠で、それは華乃自身の嗜好やキャラクターとも親和性が高い。幼い頃からダンスを入り口に活動を始めた彼女だが、歌への意識が芽生えたきっかけは中学生になって聴きはじめたカゲロウプロジェクトなどのボカロ作品だったそうだ。

 「ダンスのレッスンをするなかでボイトレみたいなのも少しやってたんですけど、ちゃんと歌が好きになったのは、中学生になってボカロや歌い手さんにドハマりしてからですね。nanaっていうアプリで自分でも投稿してみたり(笑)。そこがいまに繋がってるというか、そういう音楽をインプットしてきたからこそ、ネット・ミュージックみたいなところの声質や歌い方が私の中に残ってるのかなって思います」。

華乃 『トキメキ詐欺 - EP』 Echoes(2026)

 ギャルっぽい陽気さと繊細さを併せ持った可憐な歌声、そうした素養が伸び伸びと活かされているのは、このたび登場した初のフィジカル作品『トキメキ詐欺 - EP』を聴けばすぐにわかるはず。ふるーり作の“お気の毒様ね。”などでは彼女自身の恋愛観が曲作りにも反映され、楽曲そのものや歌唱にリアリティをもたらしている。

 「“お気の毒様ね。”はもっと若い頃の恋愛というか、別れた後にも相手に執着しちゃって、未練があるから強がって攻撃的になっちゃうような段階を歌っています。EPを通じて恋愛のいろんなフェーズを描いているので、その時々の自分に合う曲を探して聴いてほしいですね」。

 恋愛の多様な局面を彩るサウンドもさまざま。東京真中による2ステップ調のビートがクールで心地良い“トキメキ詐欺”は「いわゆるクズっぽいチャラチャラした人に、ダメってわかっててもはまっちゃう時の感情」を表現した逸曲だ。また、OHTORA×maeshima soshi作の“執着地点”では、洗練されたチルいコード感に乗せて大人びた表情を覗かせる。

 「“執着地点”は他の曲に比べて優しい曲ですね。二人で何気ない日常を過ごして、刺激が欲しい時もあるけど、思い返せば結局こういうありふれた日常がいちばん幸せだったんだなって気付く……みたいな(笑)。〈使い古されたトキメキ 半減しちゃったけど 習慣に勝るものはないんだって〉という歌詞が大好きで、ホントその通りだなって思える曲です」。

 一方、RuLu作の“Day & Night”はTV番組「永野&くるまのひっかかりニーチェ」のEDテーマにも起用された浮遊感のあるポップ・チューン。ラストを飾るイチョウ作の“きゅん接近あらーと”では、より初々しい恋心がアッパーに弾ける。

 「“Day & Night”は、テンポもノリやすくて少し前のアニソンというか、平成っぽいサウンドが好きなテイストで、歌ってても楽しいですね。“きゅん接近あらーと”は、歌詞は片思い中で切ないけど甘酸っぱいアイドル・ソングに近い曲調で。自分も考えすぎてメンタルが沈んじゃった時に無駄に明るくすることがよくあって(笑)、この曲も落ち込んだ時に聴いてもらえたら悩みがどうでもよくなるぐらいの明るい曲かなって思います」。

 そんな多面的な歌世界を表現した今回のEPは最初の一歩。ダンスにも定評のある華乃のポテンシャルはここからさらに覚醒していくことだろう。

 「ステージで一人で歌うのって、想像以上に体力も使うし、緊張もあるし。ライヴでもめっちゃ踊りたいんですけど、まだその余裕もないぐらいなので、自分のやり方を模索中です。いまはリリイベやライヴ出演を通じて戻ってきた実感が湧いて、がんばりたい気持ちが改めて高まっているので、いずれはワンマンもやりたいし、恵まれた環境にいさせていただいてチャレンジの幅も広がったから、自分もできる限りの挑戦をしていきたいです」。

 


華乃
大分出身、2003年生まれの〈新世代のラブソングシンガー〉。幼い頃にダンスを始め、芸能活動を開始する。2022年にGANG PARADEに加入し、2023年からはKiSS KiSSの活動を兼任するも、2024年7月にグループを脱退。2025年9月にMAISONdesの“ならない日々”にフィーチャーされて現名義で活動を再開し、11月に初ソロ曲“お気の毒様ね。”を発表する。今年に入ってEchoes所属を発表し、このたび初の楽曲集となる『トキメキ詐欺 - EP』(Echoes)をリリースしたばかり。