病魔を打破し、US西海岸のパンク・レジェンドが完全復活! 狂気の時代に反骨精神と自由を謳った『Born To Kill』には、マイク・ネスの人生に起きたどんなストーリーが映っている?
アメリカ西海岸パンク・ロックの〈生ける伝説〉、ソーシャル・ディストーションのニュー・アルバム『Born To Kill』がリリースされる。78年に結成され、90年の3作目『Social Distortion』で全米ブレイクを果たした彼らは突っ走るだけでなく、カントリーやブルースのテイストも加えた〈泣ける〉パンク・ロックで支持を獲得。ハードコア、オルタナティヴ、ポップ・パンクなど幅広い層から愛され、オレンジ・カウンティのシーンから世界へと活動の舞台を広げていった。さらに2011年の7作目『Hard Times And Nursery Rhymes』は全米チャート4位というバンド最大のヒットを記録するが、同作に伴うツアー以降はアルバムを完成させることなく、その後のコロナ禍で活動はストップ。さらに創設メンバーのマイク・ネス(ヴォーカル/ギター)が扁桃がんを患っていると明かし、ファンを心配させた。
だが、彼らは不死鳥の如く蘇り、2021年にライヴ活動を再開。このたび15年ぶりのアルバム『Born To Kill』で完全復活したのである。〈殺すために生まれた〉と宣言するこのアルバムについて、インタヴューに答えてくれたマイクがキーワードとして挙げるのが〈原点回帰〉だ。
「パンクを聴くようになり、毎晩のようにライヴを観に行った70年代後半のパンク・ロックの音を出したかった。〈こんな音楽をやりたい!〉と思っていたサウンドと反逆精神、そして生のエネルギーだ」。
アルバムからの先行曲“Born To Kill”は〈そんなのできっこないと言ってくる奴らがいる/でも革命は楽しいものだ〉というフレーズから始まる。まさに反逆精神を込めたメッセージだ。
「〈何度、尻を蹴飛ばされても俺を止めることはできない!〉という精神を若い世代のリスナーに伝えたかった。こんな時代だから特にそう感じたんだ」。
そんな“Born To Kill”はMVも公開されているが、デヴィッド・ボウイ、イギー・ポップ、ルー・リード、ラモーンズ、ウディ・ガスリー、ローリング・ストーンズ、ニューヨーク・ドールズ、T・レックス、ブロンディ、モハメド・アリなど、バンドの原点にあるヒーローたちのフッテージが使用されているのも興味深い。
そして第2弾の先行曲として発表された“Partners In Crime”にも、社会や家庭からの疎外感を抱えていた時期の〈自分の声を持つためにパンク・ロックのバンドを始める必要があった〉という切実な想いが込められている。普段は強力なエネルギーを放っているマイクの、あまり見せない脆い側面が歌われているこの曲もハイライトのひとつだ。
バンドのカントリーへの傾倒もさらに露わになっている。まず“Crazy Dreamer”ではルシンダ・ウィリアムスとの共演が実現。今年の1月にニュー・アルバム『World's Gone Wrong』を発表したルシンダはマイクと20年来の友人だ。
「二人とも60〜70年代に言論や表現の〈自由〉を体験することができた世代だ。奪われようとしている世界をどうすれば正せるのか?などの話題を普段から話しているよ」。
さらに本作ではクリス・アイザックの“Wicked Game”をカヴァー。カントリーとロカビリーのクロスオーヴァーで知られ、デヴィッド・リンチの映画への楽曲提供なども行ってきたクリスの曲について、マイクは「ビューティフルな曲。自分に語りかけてくる感覚があった」と説明する。
『Born To Kill』を引っ提げて、ソーシャル・ディストーションはツアーに出陣。6月からヨーロッパのフェスティヴァル戦線に飛び込み、8月から10月まで北米を隈なくサーキットする。「ほとんどオフ日がなくて、クレイジーだと自分でも思うよ」と自虐的に笑う彼だが、これだけのスケジュールを組めるのはコンディションの良さの証明だろう。「来年は日本にも行きたい」というメッセージが現実になることを祈りつつ、『Born To Kill』を繰り返し聴きたい。
ソーシャル・ディストーションの作品。
左から、2011年作『Hard Times And Nursery Rhymes』(Epitaph)、96年作『White Light, White Heat, White Trash』、90年作『Social Distortion』(共にEpic)
左から、マイク・ネスの99年作『Under The Influences』(Time Bomb)、ルシンダ・ウィリアムスの2026年作『World's Gone Wrong』(Highway 20)、クリス・アイザックの89年作『Heart Shaped World』(Reprise)
