厄介ごとこそ人生の妙、と思わせる男の生き方を味わう一冊

 自分でも、これまで生きてきた短いとも言えない年月を振り返れば、それなりの波乱万丈な人生だったと思うこともあるだろうが、この本の語り手ほど――まさに映画のような――といっても、そんなによくできたストーリーではない、どこか不条理に現実の無情さを背負ってしまう人物はほかにいないだろうと思わされる。とはいえ、これは、運に見放された男を主人公にしたフィクションではない。

JOHN LURIE, 齊藤弘平 『骨の記憶 ジョン・ルーリー回想録』 国書刊行会(2026)

 本書は、デビュー当時はフェイク・ジャズとも呼ばれた、ラウンジ・リザーズを率いるミュージシャン、そして、ジム・ジャームッシュの映画で注目を集めた俳優、TV番組のプロデュースとそのホスト役、さらにはジャン=ミシェル・バスキアとも旧知の仲である画家、そして文筆家、と多彩な活動を繰り広げるジョン・ルーリーの回想録である。その語り口からは、ジャームッシュの映画での彼の役どころにも似た、ドラマティックなわけではないが、いつもどうにもならないアクシデントに事欠かない、にもかかわらずけして悲観的なわけでもない、そんなルーリーのキャラクターが見えてくる。

 それはまた、ルーリーのキャリアを形成した80年代のニューヨークという文化の坩堝というべき状況の地下水脈を見るようである。またそこからスタートした音楽活動と、その後のさまざまなキャリアの展開と、それに付随してつねに身に降りかかってくる厄介ごとの数々が、軽妙な語り口とともに綴られる。

 グレン・オブライエンやロバート・フリップ、バスキアといった、ノー・ウェイヴ期の伝説的TV番組「TVパーティー」界隈の交流は、意外な人間関係を知ることができる。フリップの人気を前座だったラウンジ・リザーズが食ってしまったのが最初のレーベルEGとの破局の原因だったとか。ジャック・スミスの映画をジェームズ・チャンスを息子役にして映画を撮る、といったひまつぶしとも言える思いつきと、その破綻。アート・リンゼイとともに行なった、当時NY先端アートの拠点だったスペース〈キッチン〉での冗談のようなパフォーマンス。

 一方、盟友スティーヴ・ピッコロとアントン・フィアとの確執と、それにともなうバンド内人間関係のこじれは、初期ラウンジ・リザーズを終焉へと向かわせた。以降、ジャームッシュの「ストレンジャー・ザン・パラダイス」の高評価による俳優としての活動から、「フィッシング・ウイズ・ジョン」(DVDは絶版なのが残念!)でのTV番組出演。そして、現在では画家を本業(?)として活動するルーリーのあれやこれやの人生が、700ページ超えの大部の書籍に詰め込まれた、最高の本である。