Photographer: Honorata Karapuda

唯一無二の才能が日本に降臨。黄金コンビによる注目の2タイトルを体験せよ。

 近年、その神がかった美しい歌声でシーンを席巻しているヤクブ・ユゼフ・オルリンスキは、ブレイクダンサーならではの卓越した身体能力とモデル並みの容姿に恵まれ、インフルエンサーとして国際的なブランドとコラボし〈Z世代をも魅了する〉と称されるカウンターテナーの逸材。2024年パリ五輪開会式での鮮烈なパフォーマンスもまだ記憶に新しい。今年4月には神戸と東京で待望の日本初リサイタルを開催し、ミハウ・ビエルのピアノ伴奏でバロック・オペラのアリアや故郷の作曲家による歌曲を披露して両会場を熱狂させたばかり。

 ポーランド生まれの二人は国立歌劇場のアカデミーで出会い、留学先の名門ジュリアード音楽院でも共に学んだ盟友。2022年に初の共演アルバム『フェアウェルズ~ポーランド歌曲集』(輸入盤)をリリースし、レアな企画ながらも高評価を得ている。

 オルリンスキ「海外で歌っても反応が良く、やはり我々のアイデンティティにも関わるので録音したかった。OKしてくれたレコード会社には感謝しかない……カウンターテナーってだけでリスキーなのに(笑)」

JAKUB JÓZEF ORLIŃSKI, MICHAL BIEL 『フェアウェルズ~ポーランド歌曲集』 Erato(2022)

 今回の日本公演でも同アルバムから二人の作曲家の作品を選曲。タデウシュ・バイルト(1928-1981)が有名なシェイクスピア詩のポーランド語訳に作曲した“4つの愛のソネット”は、テキストの持つ深みと曲ごとに雰囲気の違う耳馴染みのよいメロディとが相まった絶品歌曲だ。

 ビエル「現代曲なのにネオ・クラシカルな手法で書かれていて、ポーランドと古の英国文学とを繋いで独自の世界を紡ぎ出すのが見事です」

 殆どが母国の詩に(1896年頃)作曲されたミェチスワフ・カルウォーヴィチ(1876-1909)の楽曲は、どこかラフマニノフの歌曲にも通じる懐かしさと憂いを湛えていて心を掴まれる。

 ビエル「確かにスラヴィックな哀愁に通じるものがありますね。交響詩も書いていますが歌曲で知られていてピョートル・ベチャワ(※現代ポーランドが誇るスター・テノール)もよく歌っている。登山愛好家で自然の風景を謳いあげるのが上手い」

 オルリンスキ「スキー中の雪崩事故で若くして亡くなったので現存する歌曲は22曲程しかなく、どれも素晴らしいのですが本人は気に入らなくて燃やそうとしたとか」

 二人のコラボはパーセルやヘンデルのアリアを収録した最新アルバム『イフ・ミュージック…』で再び結集。

 オルリンスキ「例えばパーセルのセミ・オペラ『アーサー王』(1691年初演)内の“汝はいかなる神ぞ”(コールド・ソング)のコード進行が、Netflixのヒット・ドラマ『ザ・クラウン』のメイン・タイトル曲(ハンス・ジマー)でそのまま使われているように、バロックは現代人にとっても魅力的な音楽です。私たちは300年の時を旅するイメージで、それをピアノ&カウンターテナーという独自のやり方で練り上げ、更に輝かせたい」

JAKUB JÓZEF ORLIŃSKI, MICHAL BIEL 『イフ・ミュージック…(パーセル、ヘンデル、他)』 Erato/ワーナー(2026)

 同じくリサイタルでもとりあげた、ヘンデルのオペラ・アリアもこの二人の手にかかればまるで現代劇のようにリアルで、キャラクターの強烈な個性がよりドラマティックに迫ってくる。

 オルリンスキ「ミハウのピアノがとてもシアトリカルに感情を引き出してくれるからね」

 ビエル「オーケストラと違い、室内楽的アプローチで親密に声と向き合えるのが強みかも」

 今年初めにはフランスのイベントで米国人ラッパー、エイサップ・ロッキーとのステージも話題を呼んだオルリンスキ。彼の地平はこれからも広がり続けるに違いない。

 オルリンスキ「いろんな人に興味を持ってもらいたいし、新しい客層がホールまで足を運んでくれたら嬉しい。自分もふだんからファンクやヒップホップなど様々な音楽を楽しむ方で、クラシックなら器楽曲が好き。憧れたのはマリリン・ホーン(※20世紀後半に活躍したアメリカ生まれのメゾ・ソプラノ)の声。そしてアンドレアス・ショルが私にとっての〈神〉です」

 


ヤクブ・ユゼフ・オルリンスキ(Jakub Józef Orliński)
ポーランド出身のオペラ歌手(カウンターテナー)。ジュリアード音楽院で学び、数々のアルバムやコンサートで高い評価を得る。さらに、ロレックス、ルイ・ヴィトン、ナイキなどの国際ブランドでモデルやインフルエンサーとしても活動し、ブレイクダンスでも国内外の大会で上位入賞。2023年にリリースされたアルバム『Beyond』、2024年の『#LetsBaRock』では世界各地でツアーを行い、革新的な音楽性で注目を集め、各公演ではチケットが完売し、新たなファン層をクラシック音楽に引きつけている。

ミハウ・ビエル(Michał Biel)
ポーランド出身のピアニスト。オルリンスキと同じくジュリアード音楽院で学ぶ。卒業後、世界各地のコンサートホールで伴奏者として数々の音楽家と共演し注目を集めている。特にオルリンスキとは定期的に共演し、各国の音楽祭への参加やアルバム『Farewells』で高い評価を得ている。