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多彩なサウンドの意味

 今回の『太陽之子』が最初にデジタル配信される今年の3月には、配信スタートに先駆けてジェイ本人が台北で記者会見に出席した。新作リリースにまつわる記者会見で登壇するのは約10年ぶりだそうで、それだけでも本人の新作にかける気合いの程は窺える。さらに会見の最後にはユニバーサル・ミュージック・グループ会長兼CEOのルシアン・グレンジとYouTubeグローバル音楽責任者のリオ・コーエン(あの!)も新作発表に寄せて祝福のメッセージを寄せていたから、今作が各方面にとってそれだけ大きなプロジェクトなのは言うまでもない。

JAY CHOU 『Children Of The Sun』 JVR/Universal Taiwan/ユニバーサル(2026)

 リリースにあたってまず話題になったのは、リード・トラックにあたる“太陽之子(Children Of The Sun)”の製作費に台湾アーティスト史上最高額となる約1億台湾ドル(約5億円!)をかけたという話題だろう。ジェイいわく「コンサートの1曲目として制作した」という通り、同曲はエントランス感のある導入からシアトリカルに展開していくドラマティックな雰囲気になっており、約7分に及ぶMVも映画「アバター」や「ロード・オブ・ザ・リング」「猿の惑星」「デューン」などの作品に携わってきた世界的クリエイティヴ・チーム〈Weta Workshop〉とのコラボによって実現した。およそ2年3か月もの期間をかけて制作されたという映像はジェイ本人がクリムト「接吻」やゴッホ「包帯をした耳の自画像」などの名画の世界と遭遇する趣向になっていて、恐ろしいクオリティの高さはもう観てもらうしかないだろう。

 そんなこだわりの深さは、もちろん映像だけでなく肝心のアルバム本編にも浸透している。件の“太陽之子”がシアトリカルでゴシックなメタルコア調の展開を見せていたように、滑らかなメロディーをデリヴァリーする多種多様なアレンジの引き出しの多さはこの新作においても非常に興味深い。西部劇のサントラのような意匠もあれば、懐かしめな直球のハード・ロックもあり、もちろん根源にあるのだろう中華圏の歌謡曲っぽいメロディーも覗く。あるいはジャズ・ファンクもあったり、今風のポップ・カントリーに思える曲があったり、ひとつのアルバムでここまで幅広いことをあえてやっているというアーティストもそう多くはないのではないだろうか。これはエンターテイナーとしての受け手へのサービス精神なのか、単に本人がいろんな音にトライするのが好きなのか、恐らくはその両方のように思える。

 言語がハードルのように感じられた頃の感覚を超えて彼の楽曲を聴いてみれば(対訳もありがたい)、そこにあるのは何語でも変わらない創作への真摯な想いだ。もうその規模ごと日本で体感できるような機会はなかなか難しそうだが、物凄いスケールだと思われる彼のライヴ・パフォーマンスにも、音源やMV同様に触れてみたいものである。