眩しく輝き、時には激しく炎を上げ、あるいは晴れやかに微笑み、温かい陽光を降り注ぐ……そんな〈太陽の子〉ことジェイ・チョウがニュー・アルバムをリリース。この機会に彼が放つ音楽に触れてみよう!
凄まじいスケール
ジェイ・チョウは〈Mandopopの王〉だという。Mandopopとは北京語(マンダリン)で歌われるポピュラー音楽の総称で、中国本土や台湾、香港、東南アジアの華人社会で絶大な人気を誇るC-Popの主力ジャンルであり、つまりジェイはC-Popの分野における最有力アーティストのひとりとして、世界的に絶大な支持を得ているということだ。日本ではまるで認知されていない部分も大きいと思うが、公式の資料にあるだけでもそのスケールは凄まじい。これまで発表してきたアルバムの全世界累計セールスは3,000万枚以上。2022年には国際レコード産業連盟(IFPI)のグローバル・アルバム・セールス・チャートにおいて中華圏のアーティストとして史上初の世界1位を獲得していて、これはテイラー・スウィフトやBTSを上回るフィジカル作品のセールスを達成したということだ。当然ながらストリーミング配信においての人気も中国圏やシンガポールにおいては常にトップクラス。
いま名前を出したテイラーがよく語られるようなライヴ/コンサートの規模について見てみると、ジェイのライヴが生み出す経済効果もこのクラスのアーティストならではのハンパなさだ。世界各地で5万人規模のスタジアム公演を瞬殺しているのは当然として、例えば2023年の中国・海口公演では約1億3,500万ドル(約215億円)の観光収益を4日間の公演で創出したというのだから、ジェイが動けばいろいろなものが動く状況というわけだ。
もちろん彼は本分である音楽アーティストとしての本質を見失いはしない。これまでアジア版グラミーとも称される金曲奨(Golden Melody Awards)において15冠を獲得し、これは歴代最多受賞数にあたるという。そうしたスケールや数字の話ばかりしても、あまりの死角のなさにクラクラしてきそうだが、ともかく大切なのはニュー・アルバムである。さようにして中国語文化圏において押しも押されぬ最上級のスーパースターで在り続けるジェイ・チョウが、前作『The Greatest Work』(2022年)からおよそ4年ぶりとなるアルバム『太陽之子(Children Of The Sun)』を完成させたのだ。

独自のポップセンス
79年に台湾で生まれたジェイ・チョウ(周杰倫)は、生物教師の父親と美術教師だった母親の間に生まれている。母親の勧めで3歳からピアノを始めたそうで、成長するにつれて着実に才能を磨き上げていったジェイは、進学した高校の音楽科でピアノを専攻するなど、ティーンの頃から音楽にどっぷり熱中して自分の将来を見定めていたのだろう。学業は芳しくなく大学へは進めなかったものの、そのことが却って音楽家になる夢への想いを強くして、生活のためにバイトをしながらチャンスを窺っていたようだ。
そして97年にTVのオーディション番組に出場して歌とピアノを披露した際、その司会者だったジャッキー・ウー(呉宗憲)に才能を見初められ、彼のプロダクションと契約することになる。当初のジェイは他のアーティストへの楽曲提供という部分から頭角を表し、その頃には日本でも知られたビビアン・スーも含むさまざまなシンガーたちに多くの楽曲を書き下ろしている。そうした貢献と曲作りの速さがジャッキーに認められ、2000年にファースト・アルバム『Jay』をリリースするに至った。スーパースターになる男の破竹の活躍はそのようにして始まったのだ。
そこからのジェイはしばらく毎年のようにコンスタントなアルバム・リリースを重ねていくことになる。作曲家や俳優としての顔も持つことを思えば相当なハイペースという他ないが、今回はそれらの作品が(順次)日本盤化されているので、このタイミングでチェックしてみるのもいいだろう。ちなみにいま初作『Jay』を聴いてみると、ミレニアム前後だった当時のトレンドなどを思い起こされる部分もありつつ、最初から多種多様なアレンジの振り幅を用意してさまざまなスタイルの楽曲を披露していたことに気付かされる。当時でいうと主にUSの最先端に位置するヒップホップやR&Bに影響を受けたポップソングはさまざまな国の多くのフィールドで生まれていたものだと思うが、ジェイもその流れに則りつつ、歌謡曲や映画音楽、フォーク、ジャズ、クラシカルなロックなど多種多様なフレイヴァーを織り重ねて、持ち前のセンスで自分自身の音楽性へと確実に取り込んでいるのだ。それは以降のアルバムについても同様だし、このたびのニュー・アルバム『太陽之子』にも脈々と受け継がれている部分だと思う。

多彩なサウンドの意味
今回の『太陽之子』が最初にデジタル配信される今年の3月には、配信スタートに先駆けてジェイ本人が台北で記者会見に出席した。新作リリースにまつわる記者会見で登壇するのは約10年ぶりだそうで、それだけでも本人の新作にかける気合いの程は窺える。さらに会見の最後にはユニバーサル・ミュージック・グループ会長兼CEOのルシアン・グレンジとYouTubeグローバル音楽責任者のリオ・コーエン(あの!)も新作発表に寄せて祝福のメッセージを寄せていたから、今作が各方面にとってそれだけ大きなプロジェクトなのは言うまでもない。
リリースにあたってまず話題になったのは、リード・トラックにあたる“太陽之子(Children Of The Sun)”の製作費に台湾アーティスト史上最高額となる約1億台湾ドル(約5億円!)をかけたという話題だろう。ジェイいわく「コンサートの1曲目として制作した」という通り、同曲はエントランス感のある導入からシアトリカルに展開していくドラマティックな雰囲気になっており、約7分に及ぶMVも映画「アバター」や「ロード・オブ・ザ・リング」「猿の惑星」「デューン」などの作品に携わってきた世界的クリエイティヴ・チーム〈Weta Workshop〉とのコラボによって実現した。およそ2年3か月もの期間をかけて制作されたという映像はジェイ本人がクリムト「接吻」やゴッホ「包帯をした耳の自画像」などの名画の世界と遭遇する趣向になっていて、恐ろしいクオリティの高さはもう観てもらうしかないだろう。
そんなこだわりの深さは、もちろん映像だけでなく肝心のアルバム本編にも浸透している。件の“太陽之子”がシアトリカルでゴシックなメタルコア調の展開を見せていたように、滑らかなメロディーをデリヴァリーする多種多様なアレンジの引き出しの多さはこの新作においても非常に興味深い。西部劇のサントラのような意匠もあれば、懐かしめな直球のハード・ロックもあり、もちろん根源にあるのだろう中華圏の歌謡曲っぽいメロディーも覗く。あるいはジャズ・ファンクもあったり、今風のポップ・カントリーに思える曲があったり、ひとつのアルバムでここまで幅広いことをあえてやっているというアーティストもそう多くはないのではないだろうか。これはエンターテイナーとしての受け手へのサービス精神なのか、単に本人がいろんな音にトライするのが好きなのか、恐らくはその両方のように思える。
言語がハードルのように感じられた頃の感覚を超えて彼の楽曲を聴いてみれば(対訳もありがたい)、そこにあるのは何語でも変わらない創作への真摯な想いだ。もうその規模ごと日本で体感できるような機会はなかなか難しそうだが、物凄いスケールだと思われる彼のライヴ・パフォーマンスにも、音源やMV同様に触れてみたいものである。
コンスタントに日本盤化が実現中! 新作『Children Of The Sun』と合わせて、これまでのジェイ・チョウにも注目しよう!
デビューと同時にスターダムを駆け上がったという記念すべきファースト・アルバム。全曲を自作してセルフ・プロデュースできているのは凄いが、その環境が自由度の高い作風に結びついたであろうことは想像に難くない。USっぽいヒップホップ・ビートからジャズ・ファンクまでフレッシュだ。現在もガッチリ組む盟友のヴィンセント・ファン(方文山)はこの頃から作詞を担当している。
日本盤の邦題はそのまま『ファンタジー』。フードを被ったアートワークが示唆するようにヒップホップ/R&Bへの傾倒がさらに深まり、アレンジの幅広さによってソングライティングも大いに成長している。昨今振り返られるタイプの00年代感も漂うのは、当時からトレンドを踏まえていたからだ。後に映画「グリーン・ホーネット」に出演した際に用いられた“ヌンチャク”も興味深い。
ジャケの雰囲気が変わったサード・アルバムで、邦題は『エイト・ディメンションズ』。ラップも交えながら全体的にはメロディアスなR&Bテイストが前面に出されていて、自身の過去や伝統的なお茶の文化まで、曲ごとのテーマもユニークに広がっている。中国の宮廷テイスト(?)のロックがあったりする一方、新作にも繋がるイタリア音楽への興味はすでに“ミラノの鍛冶屋”に窺える。
アルバム・タイトルはジェイの母親の名前から取ったもので、冒頭曲が“以父之名(父の名において)”なのも興味深い4作目。同曲は荘厳なクリスチャン・ミュージック風味の出来映えだが、アルバムを通じてはロック・テイストのパワフルなナンバーが増えているのがポイントだ。スタイリングの変化が物語るように、初期からのストリート色はいったん後退している。
軍服を着たジャケも印象的な5作目。ジェイの代表曲とも言われるタイトル・トラックの“七里香”は台湾の有名な詩人である西慕容の作品〈七里香〉から取ったものだそう。R&Bテイストのラヴソングも中国の歴史からアイデアを得た壮大な曲、ストレートなバラードなど多彩なエモーションが渦巻く一枚で、メランコリックなラストの“停戦の代償”は当時のイラク戦争に着想を得たもの。
ライヴ盤を間に挿んで、ジェイがもっとも尊敬する音楽家だというショパンからタイトルを取った6枚目のオリジナル・アルバム。ポップ・ミュージック以前に熱中していたクラシック音楽の素養が活きてきた側面もあり、美しい楽曲が並んでいる。ジェイが主演した映画「頭文字D」のために作って歌った主題歌“Drifting”と挿入歌“All the Way North”もボーナストラックとして収録。
『ファンタジー』の続編的な位置付けにある7作目は『スティル・ファンタジー』。引き続き幼い頃から影響を受けたクラシック音楽やR&B/ヒップホップ、中国の伝統的な音楽がジェイならではのセンスで巧みに融合されている。台湾の正統派スターであるフェイ・ユーチンをフィーチャーした“千里之外”が大ヒットを記録した。なお、本作以降3タイトルのリイシューは8月19日となる。
『僕はとっても忙しい』という邦題も印象的な8枚目のオリジナル・アルバム。初監督映画の撮影を終えた後に過密スケジュールのなかで制作されたそうで、忙しくても〈年に1枚はアルバムを出す〉というファンの約束を果たす姿がそのまま表題になった格好だ。アートワークが示すようにカントリー&ウェスタン調のオープニングから新しいアプローチにも挑戦しつつ、王道のバラードも絶品だ。
9枚目のオリジナル・アルバムで、いつもよりラヴソングが少なく聴き手を癒すタイプの楽曲が多く収められているのは、リリース当時の世界的な金融危機(リーマンショック)や相次ぐ自然災害で落ち込んでいる人たちや社会へのメッセージを優先したためだという。引き続きオリエンタルな味付けも交えて聴かせるR&B/ヒップホップ路線の曲もはや安定のカッコ良さだ。









