
アルバムの核はライブ感
――(笑)。その役割を踏まえた上で『Ballad of You』について伺わせてください。本作にはどのようなコンセプトがあるのでしょうか?
ハンジュ「今回は〈輪廻〉という特定の概念を分解して組み立てるような、少し抽象的なアルバムになっています」
チュンチュ「そう、アルバムに関する最初の話し合いでハンジュが〈輪廻〉というテーマを持ってきたんだよね。いくつかデモを聴いた段階で、ハンジュが最近読んだ手塚治虫の『火の鳥』とそこで語られている概念を持ち出して〈輪廻をテーマにした曲を作ろう〉という話になり、リード曲の“Manphasickzuck”が完成しました。それ以外の曲は直接的にコンセプトと関連しているわけではないのですが、音楽的には近いトーンに仕上がっています。
前作の『POWER ANDRE 99』は〈マシンボーイの物語〉というコンセプトを明確に定め、全ての曲が巨大な叙事詩の中に入っているという構成を目指しました。むしろ『Ballad of You』では世界観や叙事詩を凝縮させ、トラックの一つ一つに強い印象をリスナーが抱くことを想定しています。何より、『Ballad of You』のサウンドの核にあるのはライブ感なんです。昨年12月の日本でのライブをはじめ、アジア各国での公演を終えてからすぐにアルバムを準備したのも繋がっています。……長く話しすぎました(笑)」
――いえいえ、グレイトアンサー!
一同「(笑)」
ウンヒ「(すべての発言を訳し終えた通訳者へ)グレイトトランスレーター!」

SF的コンセプトで〈ライブでのカタルシス〉を増幅させる
――(通訳者へ)ありがとうございます(笑)。ハンジュさんは「火の鳥」のアイデアをどのように“Manphasickzuck”へと落とし込んだのでしょうか?
ハンジュ「“Manphasickzuck”はA-B-A-B-C-Dの曲構成なんですよね。A-Bを繰り返すことによって輪廻を表現しつつ、そこからCパートで新しい局面を迎えたようにも聞こえるけど、実は前のパートと相似形のコード進行になっていて、まるで同じ顔で違う人生を生きているかのような錯覚を与えています。歌詞にも彗星が出てくるし、〈僕が君で君が僕だった〉みたいな内容です。このようにして、輪廻としての生が解体される絵を描きたかったんです」
――『POWER ANDRE 99』における〈マシンボーイの物語〉というコンセプトや『Ballad of You』における「火の鳥」など、Silica Gelの作品はSF的な想像力を足場にしている印象です。なぜそのようなモチーフに惹かれるのでしょうか?
ハンジュ「これは他のメンバーにも聞いてみたい質問ですね。まず僕から短く話すと、実はコンセプトに関する悩みはごく副次的なものなんです。まず作りたい音楽があって、その方向性に合うコンセプトをSilica Gelでは後から探っていくんです」
チュンチュ「確かにSF的ではあるけど……そこで展開されるストーリーやナラティブ自体に惹かれるという側面が大きいかもしれません。つまり、メディアとしてのSFですね。例えば『バットマン』という作品においても、ブルース・ウェインが衣装を着て悪党を退治する瞬間よりも、むしろブルース・ウェインというキャラクターが持っている歴史やヒーローという存在に対する苦悩の方に僕らは注目してしまうんです。その背景があることによって『バットマン』の世界観はより豊かなものへと変貌するわけで、Silica GelにおけるSF的なコンセプトも自分たちの伝えたいテーゼを増幅させるための土台として機能しているのだと思います」
――では『Ballad of You』で設定した〈伝えたいテーゼ〉とは何ですか?
チュンチュ「ライブでのカタルシスです。デモが揃った段階で、このアルバムは『POWER ANDRE 99』よりもミニマムで、ライブでの4人の音を強調したものに仕上がる予感がしたんです。なので作品のドライブ感を優先してワンテイクでの録音を選択したり、あとは最近買ったテープレコーダーの自然なディストーションを重視しました。『POWER ANDRE 99』よりも音数は少ないけど貧弱な印象は与えたくない、だからこそライブ感とテクスチャーを追求したんです。つまり、それはロックとエレクトロニカの折衷でもあります」

ロックと電子音楽を融合させる〈テクスチャー〉
――ロックとエレクトロニカの折衷という点において、理想としているレコードはありますか?
チュンチュ「制作中はニルファー・ヤンヤをよく聴いていました。自分たちがロックとエレクトロニカの間にある中性的なサウンドを作り出すため、プロダクションの参考にしましたね。
それと“Dr. BOB”ではYMOや細野晴臣さんの『S・F・X』のサウンドから多分にインスピレーションを貰いました。バンド編成のサウンドからエレクトロニカの音を引き出すアイデアを参考にしたかったんです」
――『POWER ANDRE 99』では力強いロックサウンドが展開されていましたが、そこから『Ballad of You』でエレクトロニカとの折衷を試みようとしたのにはどのような必然性があったのでしょうか?
ハンジュ「バンド編成を前提にすると、どうしてもギターが一番重要なパートを担いがちなんですよね。ギターの魅力をアピールした時にバンドサウンドの快感がパッと押し寄せてくる場合が多い。『POWER ANDRE 99』はその快感に抗わず、その上でSilica Gelが関心を抱いていたエレクトロニカへの興味をハイブリッドな方向性で混ぜた作品なんです。
ただ『Ballad of You』において試みたのは、そうした二者の要素をテクスチャーによって繋ぐことなんです。そのためにはシンセサイザーをテープレコーダーのようなアナログな手法で録音し、ギターと並列にする必要があった。今回は均一な強度で各自の魅力を上手く混ぜ合わせ、バンドとしてのチームワークが発揮できていると思います」