©Sam Harfouche / ECM Records

田中鮎美の新しいトリオ

 『Windflower』は歌が聴こえるアルバムだ。前作『Subqueous Silence』のトリオが作る空間は、サウンドの密度とダイナミクスの変化が生み出す緊張に充ちていた。

 今回のトリオは、田中とは初共演となるトーマス・モーガンがベース、他プロジェクトで共演を重ねてきたトーマス・ストローネンがドラマーだ。きっかけは2024年のオスロジャズフェスティバルだった。当初は委嘱作品の依頼だったがフェスティバルのプロデューサーとアイデアを練る中、共演者の希望を問われ「ずっと演奏したかったトーマス・モーガンを挙げたら、いいねということになった」。結果「演奏にフォーカスしたい」という思いから、トリオでの出演となった。ステージで演奏されたのは即興に加え、フェディリコ・モンポウの作品だった。モンポウ作品の大半はピアノ作品で、田中の音楽のように内省的で、密やかな空間が広がる。

田中鮎美, THOMAS MORGAN, THOMAS STRØNEN 『Windflower』 ECM/ユニバーサル(2026)

 今回、アルバムのレコーディングのために田中が用意したのは「基本的には即興演奏で、困った時に何かあるといいなと」書き下ろした3曲だった。採用されたのは“La Source”のみ。そのメロディーは水のような流体を思わせる。歌が聴こえると書いた。「歌を大事にする」ベーシストの参加や、「はじめは抽象的な演奏をしていたんですけど、もっと和音の感じが聴こえるように演奏してみては」という現場にいたECMのスタッフからのアドバイスで方向性が一変したという。アルバム・タイトルとなった“Wildflower”を聴いてD. エリントンの“African Flower”を思い出した。そう伝えると「スタジオに入る少し前に観た映画にその曲が使われていたんです。そのメロディーが頭に残っていて」、正確にピアノで拾っていた訳ではかった。即興演奏しているうちに出てきた「映画の中に出てきたメロディーの影」のようなもので「自分の演奏として現れた」。

 曲のタイトルは録音が終わってから田中がつけた。“From Us, To You”はガザ地区に住む人たちの日記に記された人々の工夫――困難な状況下「自分達の持ち物だけでは十分に揃わない」ので、お茶を飲むのにもいろいろ持ち寄るという生活を読んで「私たちの演奏の仕方」と近いと感じたからだという。同じことが今、熊本でも必要なのだ。

 新譜発売後、欧州ではトリオのツアーが組まれている。これまでのトリオは続けるのかと問うと彼女は「楽器よりも人と演奏したい」のだからもちろん続けるのだという。

 


LIVE INFORMATION
田中鮎美 ピアノ・ソロ

2026年12月13日(日)東京・尾山台 um
https://www.ayumitanakamusic.com/concerts