ギタリスト、イングヴェイ・マルムスティーンの名盤『Trilogy』がリリースから40周年を迎えた。自身がベースも弾き、3部構成の大曲“Trilogy Suite Op: 5”を締めに据えた初期の代表作だ。今回はMikikiの人気連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉を担当するジャズピアニスト西山瞳に、本作について綴ってもらった。 *Mikiki編集部

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YNGWIE MALMSTEEN 『Trilogy』 Polydor(1986)

 

語り尽くされたアルバムを今一度考える

Mikikiイングヴェイ担当の西山瞳です。

今回は、ヘヴィメタルギター王者イングヴェイ・マルムスティーンの1986年発表作『Trilogy』がこの2026年10月で40周年ということで、連載とは別にコラムを書くことになりました。

どうせ褒めるんでしょ?とお思いのあなた、正解です。褒めます。礼賛します。

40年語り尽くされたこのアルバムですが、私の目線で今一度、考えてみたいと思います。

 

リアルとファンタジーを同一線上に置いた伝説的ジャケ

『Trilogy』は、イングヴェイを象徴する一枚。

まずはやはり、このジャケット。3本首の竜にギター1本で対峙するイングヴェイという伝説的ジャケットですね。未来の音楽の授業でメタル史を学ぶならば、このジャケットは教科書に載ること間違いないでしょう。

1作目『Rising Force』、2作目『Marching Out』のジャケットは、ギターとイングヴェイという至って普通の素材によるジャケットでしたが、この3作目『Trilogy』で初めて、全然違う〈ストーリー〉を出してきました。

これがイングヴェイの音楽のクラシカルな世界観と一致して、今でいうところのミーム化していく流れとなりますが、例えばエディ(アイアン・メイデン)やラトルヘッド(メガデス)のようにバンドがキャラクターを生み出し、そのキャラクターのストーリーとバンドが並走するのではなく、イングヴェイ自身がストーリーの一部としてキャラ化しジャケットに登場。リアルとファンタジーをあえて同一線上に提示する、画期的なジャケットだったと思います。

自分がキャラ化したことでフィクションと現実が曖昧になり、イングヴェイ自身の自信たっぷりなキャラクターや貴族、伯爵などの発言もあって、ずば抜けたギターヒーローであることと同時に〈おもしろい〉存在となりました。その後現在に至るまで全世界でミーム化してしまったイングヴェイですが、この方向性は『Trilogy』で本人が意図的に打ち出したものだったのではないか、と想像しています。我々はイングヴェイの掌で踊らされているのだ……!! 

少なくともこのジャケットの方向転換は伝説を作り、大成功だったのだと思います。

 

〈毎日寿司〉〈肉・肉・肉〉から脱皮

ファーストアルバム『Rising Force』は、圧倒的なギターの技術の革新性と、それでも失わない歌心、クラシックと共存したかのような格調の高い世界観が主軸で、ボーカルは添え物でしかなかった。

2作目『Marching Out』では歌物が増えましたが、まだインスト感覚のままの曲作りとアレンジで、歌物としてはトピックがまだ不明瞭というか、毎日寿司を食べたら美味しいかわからなくなるのと一緒で、曲の中に寿司(=イングヴェイギターソロ)が多すぎる状態でした。いくら美味しくても、毎食寿司は食べれない。

話は逸れますが、ある大先輩ジャズミュージシャンが「◯◯さんのバンドは、1ステージ60分が3曲で、肉・肉・肉だったんだよね。たまに調子良くない時は、肉・チキン・肉になることもあった。たまには野菜も入れてほしかった」とおっしゃっていたことがあるのですが、わりと似たような状態だと思われます。

この『Trilogy』は、その毎日寿司、肉・肉・肉から脱皮した記念すべき一枚で、その後の『The Seventh Sign』などの名盤に繋がるような曲もあり、〈イングヴェイ的歌物〉の必勝パターンを掴み取ったアルバムなのだと思います。

 

王者の速弾きだけじゃない! 歌物をしっかり聴かせる名盤の全曲レビュー

オープニング曲“You Don’t Remember, I’ll Never Forget”から、Aメロ、Bメロ、サビと明確に階段を上り、泣きの間奏が入ったところから、イングヴェイin。

ここまでイングヴェイがしっかり歌を立てて、ちょっとだけフィルで匂わせたりしてたんですが、やっと〈どや〜〜っ!!〉とソロが入ってくる。

待ってました!!

しっかり整理されており、渋滞していません。

2曲目“Liar”はまずリフを聴かせ、得意のハーモニックマイナースケールを使うコードに持ち込み(後の『The Seventh Sign』収録の“Never Die”に繋がるアイデアですね)、速いシンプルな8ビートで聴かせたと思ったら、クラシカルなアルペジオの連続でリスナーの耳を掴み、ギターソロの速弾きに突入。しかし鍵盤との掛け合いになるという、一歩引いたイングヴェイ。イングヴェイが良い塩梅で全体に奉仕するようにアレンジされており、とても良いバランスです。

3曲目“Queen In Love”は私の大好きな曲。今でこそメタルコア方面でお決まりの〈サビにハーフタイム〉(わざとスローダウンしたように聴かせる)ですが、イングヴェイは昔からギターソロをハーフタイム上で演奏することを頻繁にしており、これがイングヴェイの泣きのギターにとても効果的。この曲のギターソロ部分がその典型的な型で、私はこれを愛している……!

4曲目“Crying”でインストゥルメンタルバラードを挟みます。先日、全然メタルを知らない先輩ジャズミュージシャンに「メタルにバラードってあるの?」と尋ねられましたが、あるんですよ。こういうのです(イングヴェイ史観)。

5曲目“Fury”は前2作に入っていてもおかしくないタイプの曲ですが、サビの歌と並走するコード進行が非常にエモくて、前2作よりも作曲のバリエーションが豊かになっています。後の名曲“Seventh Sign”に繋がる、大事な曲です。

6曲目“Fire”も最初のコードから凝ってるんですよね。アメリカンな明るい出だしなのに、イングヴェイらしい少しの陰りがある。イングヴェイのレパートリーとしては新しい世界で、非常に新鮮でした。天才は何を演奏しても自分の色で演奏できることを証明しています。

7曲目“Magic Mirror”、このタイプの曲にしては珍しく、メジャーコードでのギターソロが一瞬だけ聴けるんですよ。久々に聴き直して、このアルバムで一番頬が緩むのがここです(2:04ぐらい)。

8曲目“Dark Ages”の遅いテンポでのイングヴェイの粘りは、これもイングヴェイの大きな特徴の一つだと思います。速弾きだけじゃない。この重いテンポでもしっかり歌物として聴かせることができるのは、実はブルースの感覚も豊かなイングヴェイならではかもしれません。高校生の時にイングヴェイがカバーする“Mistreated”(ディープ・パープル)を聴き、〈速くなくても格好良いんだ!!〉と目覚めたのがこの私です。

9曲目“Trilogy Suite Op: 5”、最後にインストの大曲を置いてアルバムを締めますが、これまでの歌物がかなり充実していたので、アルバムタイトル曲にもかかわらずずっと〈要らないんじゃ……〉と思っていたことをお許し下さい。最後にわざわざ特盛の大曲をやるのが、王者の王者たる所以です。ありがとうイングヴェイ。

 

スウェーデンジャズとの意外なつながりに驚愕

最後になりましたが、やはりアルバムの功労者はボーカル、マーク・ボールズですね。華もパンチもあり、このシンガーがいなければ良い歌物として成立しなかったことは間違いないです。そして、鍵盤のイェンス・ヨハンソンは、スウェーデンの偉大なジャズピアニスト、ヤン・ヨハンソンのご子息。自分もスウェーデンに録音に行ったことがあったので、後年知って本当にびっくりしました。高校の時に聴きまくっていたメタルの鍵盤弾きが、まさかスウェーデンジャズの代名詞『Jazz På Svenska』のヤン・ヨハンソンの息子だったとは……。

ということで、40年前に発表された『Trilogy』を改めて振り返ってみましたが、勿論イングヴェイはバリバリ現役。この前も日本に来てオーケストラと共演するなど変わらず精力的に活動しており、11月には新譜もリリースします。

『Trilogy』は、イングヴェイ的歌物の必勝パターンを掴み取った、その後のキャリアに繋がる重要な作品。40周年のタイミングで、改めて聴き直してみてはいかがでしょうか。